ファテー・サミ 2021年7月5日
ガニーを権力から引き離すチャンス
ボン会議でハーミド・カルザイ率いる暫定政府が設置されて以来、最も腐敗した人々が法権力を自らの手に入れた。カルザイ政権はアフガニスタン向けアメリカ特殊使節と呼ばれるハリルザド氏の直接の命令、影響、そして調停のもとボンで生まれた。ボン会議でハリルザド氏はカルザイがパシュトゥーン人として暫定行政の首班たるべきだと主張していたのだ。カルザイの元副大統領ヨウヌス・カヌニ・ハーミドによると、ハリルザドはボンの出席者にたいして「ハーミド・カルザイは暫定政府の首班候補であり、それがアメリカの要求である」と表明した。にもかかわらずカルザイが獲得したのはわずか2票で、ザーヒル元国王の法務大臣だったサタール・シーラット教授が大多数を押さえた。しかし教授は民族グループとしてはウズベク族出身だったため、パシュトゥーン人のハリルザドがアメリカ特殊使節の意見と銘打って介入し、カルザイを暫定政府の首班につけた。そのとき以来アフガニスタンは再び混沌とした状況に放り込まれ、破壊、腐敗、流血、困窮、頭脳流出が続き、わずかな期間の停戦さえない紛争状態が進行中である。
アシュラフ・ガニーはカルザイの後継者で、民族的支配を推し進めることに深くかかわり、自らの政策に少しでも反対する人びとを特に狙って、方針決定の場から排除し追放した。その結果、ガニの支配にたてつく強力な対抗勢力としてターリバーンが現れた。ターリバーンの急速な進出を恐れたアシュラフ・ガニーは、問題解決の糸口を見いだす最後の手段としてジョー・バイデン氏を訪問したいと何度も願い出た。ターリバーンによって自らの政府が危険にさらされているからだ。やっとのことでアメリカ行政は彼の願いを受け入れたが、公式に招いたのではなく迷惑な客として受け入れた。ガニー氏はバイデン氏に、なんらかの形で、せめて暫定政府の首班として権力に留まれないかと頼みたかったのだ。世界中の人びとと国々はアシュラフ・ガニーの腐敗した支配と失態とターリバーンへの民族的傾倒のせいでアフガニスタンの国民が来る日も来る日も殺されていることに気づいている。
そのため、このほどバイデン氏がアフガン使節団と交わした口頭での約束は、ただカーブル支配をしばらく黙らせるだけだろう。広く認識され理解されていることだが、ガニー氏の過去の行いや行状から、暴虐で神経質で短気、争いの元となり精神病、偏向しひがみっぽくうそつきで無能、自己中心的で自分勝手でそのうえ自慢屋という彼の個性はアフガン国民に知れ渡っている。国の出来事や管理に携わる能力は彼にないと思われている。ガニーは独占主義者、搾取者、ご都合主義者で、アフガニスタンにおけるパシュトゥーン人の民族的優位を唱導している。つまり彼はもの陰で二つの顔を演じる偽善者だ。最初彼が助け力づけたがために、ターリバーンは結果的に政府への新たな対抗勢力へと発達してきた。「ガニーは盗賊には盗みに入れと説き、家主には復讐しろと説く」という言葉が彼について巷ではやっている。彼は保安局と諜報局の長官に未経験者を任命し、正直な役人または経験のある役人は首にするか引退を強制している。
ガニーは新型コロナによる記録的な死者数が報告されつづけている不適切な時期にバイデンを訪問した。医療関係者たちは感染力がきわめて高い変異型ウィルスの流行も重なり、病床が一気に不足すると警告した。酸素不足と医療施設不足のために新型コロナによって毎日死者が出ている。だから彼の旅行はいかにひどく彼が慌てふためいていたか、そして彼には状況管理ができていないかを示している。権力につくのがターリバーンかガニかなど、本当の問題ではない。人々はターリバーンとアシュラフ・ガニの両方に反対しているのだ。ガニは大統領としての在職期間を通して過去も現在もずっと人種差別的考えと強く結びつけられてきた。彼はいつもの行状や個別の行いで、パシュトゥーン人以外の民族を権力から排除し、国防、治安、教育、経済、その他かぎとなるすべての分野で彼らを自分自身の無能な手下に置き換えた。アシュラフ・ガニが合衆国への旅に打って出たのは、ターリバーンが国中で大攻勢に出ているまさにそのときだった。
合衆国がみずから立ち上げた政府を迂回してドーハへ使節を送りテロリストの一群と交渉していることは、誰がアフガニスタンの国民の運命を決定しているのかをとても鮮やかに映し出している実例だ。アフガン情勢の進展を見つめつづけてきた人びと全員にとって今や事態は明かだ。20年前に手がけたのと同様の暫定政府を交渉者たちは設置しようとしている。ガニーはその政府の首班につこうと試みているが、その政府にはターリバーンも参加すべきだ。ところが、ターリバーンは暫定政府にガニをいれたくない。表向きは、暫定政府を経て選挙が行われ、新たに選出された政府に権力が移されるべきだ。政治アナリストは、合衆国とパキスタンがターリバーンをどうにか新政府の支配勢力にするため水面下で画策中だと信じている。
水平方向への権力分散なしでは、つまりある種の連邦政府ができて全市民が権力に参加する機会が与えられなければ、平和などまったくおぼつかないことは経験から明らかだ。ひとつのグループが中央集権で独占的に支配しても、国に平和をもたらすことは決してできない。だから永遠に権力を独占し続けたい者たちを除けば、ほとんどの人びとは連邦体制に基づく統一政府がなければ、社会的公正と機会の均等は決して実現しないと考えている。アフガニスタンで平和を確保するための第一段階となり柱となることができるのは連邦主義であろうと、ほとんどのアナリストは主張している。レザエイ(Rezaei)博士はこう述べている、「繰りかえされた歴史上の証拠と数々の不正に照らしてみれば、正義を求める多くのエリートたちは、アフガン社会の特質・構造・現実と中央集権化された政治システムとが両立せず、あい反するものであることに気づいている」と。
連邦主義は解決策たりうる。連邦的な行政システムの構造の中でのみ解決策はとりうる。約2世紀半にわたって不正に試された中央集権政府では、ひとつの民族の優勢を根本的に減じる方策をとらない限り平和は決して訪れないことが示された。進行中の抗争と国内の不安定の大きな原因のひとつは不公平である。つまりひとつの民族が権力を独占し、他の民族をつぎつぎと権力から排除し遠ざけ、国としての同一性を根絶やしにしたことだ。ひとつの民族が独占する中央集権政府はアフガニスタンの全市民が参政するためには邪魔でしかないと証明する証拠は十分にある。中央集権政府では、国に対して悪意のあるプランを押しつけられても団結してあらがうことができない。占領者と国内外にいるその支持者たちは、われわれ国民の間に不統一と不和の火をいつも灯そうとする、とアフガン政治の観察者と歴史家は見ている。地方分権政府に移行し自ら自前の州知事を選出する機会を提供することは、政治的所属、民族的所属にかかわらず国内の全員に利益をもたらすだろう。その上、地域と世界の安定にもよいことだろう。
しかし不運なことに、自らの戦略的経済的利益のために暴力をたきつけようとするミステリアス(奇怪)な勢力がはびこっている。発展と社会正義にとってはまず平和があたりまえの前提となる。状況が許さない限り、社会正義つまり全員の機会均等などありえるはずがないとわたしは思う。その結果、平和もこない。これまで何年もこなかったのだから。アフガニスタンの平和の舞台を設計する前に、国外国内の要因という視点から戦争の原因と結果を広く研究しなくてはならない。元凶は、第1回ボン会議で腐敗した政府を設立したことだ。20年経って、ボン会議以前のような混沌とした状況に国は逆戻りさせられている。あまりにも多くを費やし、国民を苦しめ、殺し、破壊と流血のあげく得たものは、単にターリバーンが再び権力に組み入れられることだけのように思われる。アフガニスタンの国民は彼らの邪悪で残忍な行動を忘れてはいない。
かつてパキスタン首相ベナジール・ブットは言った。「もちろんターリバーンはパキスタン、サウジアラビア、イギリス、アメリカが援助している」と。それは、その4か国の傭兵が将来権力につくことを意味する。彼らは極端で狂信的で愚かで不合理な集団であり、人権も民主主義も言論の自由も女性の権利も、その他なにもかもを意に介さない。
しかし、詐欺と汚職選挙という不正操作で権力についたガニー政権も同様に社会正義と平和を確保できないし、する気もない。ターリバーンとガニー政権は同じコインの表裏で、一体なのだ。
そのため、すべての国民に真に支持された代表からなる幅広い基盤を持つ政府なくしては、平和などありえず紛争と戦争が続くだろう。戦争が続けば、ある国ぐににとってはアフガニスタンへの干渉を正当化できるので有益だ。そうした国ぐにはまさにそんな事態を求めている。もしターリバーンが権力につけば、そのような国ぐには次はターリバーンをつかって、自由化によって生まれた元ソビエト連邦の国ぐににつづき、ロシア、イラン、中国、インドに対抗するだろうとアナリストは信じている。さらにまたつぎのようにも信じている、つまり、「パキスタンおよび合衆国とその同盟国は、その地域で政情不安を広め、中国の急激な経済的進歩に歯止めをかけることを目指している。いまや中国がかつてのソビエト連邦に代わって超大国アメリカを脅かす国として浮かび上がっているから」と。
社会正義に裏打ちされ、全員に機会の平等を提供しうる包括的な国民政府なしでは、平和も平穏もありえない。新たな政府の創造に合意し、そこで国民参加のもと連邦的手法で州ごとに知事と役人を選出することしか平和への道はない。さもなければ消耗戦が続いて、隣国および地域の大国や世界の大国の内部で、そしてそれぞれの国同士で、衝突が一層激化するだろう。バイデンはアフガン軍と人民へ軍事的人道的援助を続けると語った。それはガニの統率以降の政府にも援助が続くことを意味している。そんな支援はいろいろな形でここ何年にもわたり長く続いてきたが、それにもかかわらずターリバーンはより強力になってきた。
現在、政府の軍事の柱を真剣に変更することが必要である。国防と公安の国家組織をきびしく大改革しなくてはならない。つまり、無能な役人は解雇、懲罰し、かぎとなる戦闘における指導的立場には経験を積んだ元役人を復帰させるべきだ。われわれは国家の統一と連帯のために、そして軍隊を助け、必要に応じて国民蜂起や民衆蜂起さえも援助するために、懸命に働かなくてはならない。いまこれまで以上にアフガニスタンは国民が話し合い結束することを必要としている。国の作戦を練り広大な愛国戦線を形成して国家を運営するために、元の経験豊富な役人からなる「独立軍事評議会」を創造することについて国民は話し合う必要がある。
「現在の危機を制御するためには、新しい政策を打ち出さなくてはならない。そしてこの新政策で、『暫定的』であっても信頼に足る方法で国民を政治参加させる政府構成を定義する。そうすればアフガニスタンの平和と戦争の問題解決を国家として能率よく援助でき成功裏に導くことができる。かかる政治的軍事的窮地からアフガニスタンを救い出すにはそれしかない」と、アフガン政治アナリストのエルファン(Erfan)氏は述べている。
[完]