ロシア、中国、イラン、インドへの拡大が仕組まれた終わりなき戦争

ファテー・サミ 2021年7月12日

米国による無能なカーブル体制の導入と占領の結果、過去40年におよぶ代理戦争のなかアフガン情勢は急速に悪化している。米国が軍

の撤退を決めて以来、米国とNATO同盟国は、20年間の代理戦争に積極的にかかわり、カーブル政権を財政的、軍事的に、そして諜報活動面で支援してきた。アフガニスタンの国民はその間大量の死傷者を出し苦しんだ。アフガニスタンで進行中の流血、破壊、国内避難、移住、失業は、主に、国家元首としてでっちあげられたアシュラフ・ガニー大統領の管理のまずさ、利己主義、エスノセントリズム(出身部族優遇主義)、縁故主義によるものだ。アヘンの栽培、失業、不安、貧困、不公正、不平等は、カーブル政権の腐敗の帰結だ。国内のオブザーバーや外国のアナリストの多くによると、彼こそが状況を悪化させる主な理由のひとつである。

先週の金曜日にアメリカ人がバグラム空軍基地からあわただしく撤退したことで、現在の力のバランスはさらに複雑になり、曖昧さが増し、「アメリカ人とターリバーンの間で秘密の合意が急速に進んでいるのではないか」との憶測が生まれている。戦場で砲撃が続くなか交わされる口頭での戦争も意味深い。つまりアメリカ政府は表向きはテロリズムと好戦性を理由にターリバーンを非難しているが、それはターリバーン支援に関与していることを隠蔽するためだ。一方、ターリバーンはアフガニスタンの政治体制をアメリカの操り人形だから信じないと言う。

現在の戦闘は、長いプロパガンダ戦争を背景に行われている。つまりアフガニスタン軍のみならず、民間人も、また文化、宗教、教育に関する中核施設も長年にわたって広く攻撃されてきた。

いま、アフガニスタンの東西南北四隅でより多くの地区(ウォロスワリー)が崩壊し、それ以外の場所でも多くの都市の支配権が奪われている。そのためターリバーンのイデオロギーの恐怖の影にさらされた民間人は女性さえもが、武器を取ることを余儀なくされている。先週受け取った報告によると、カーブル政府がターリバーンとの対決に失敗した場合に行動を起こそうと、多くの男女が軍隊に加わったという。こうした公衆の動きはターリバーンの指導部と指揮官が自分たちはシーア派(注1)に敵意を持たず国民に復讐するつもりもないと繰り返し声明を発したにもかかわらず彼らグループへの見方が変わらなかったために起きている。それはターリバーンがパキスタンの傭兵として長い間、民間人、女性、および非パシュトゥーン民族に対して野蛮に行動してきたからだ。

アフガン西部にあるゴール州からの最新報告によると、この地域の男性が武装した後、今回は女性も武器を取り、ターリバーンにアフガニスタン全土の統治を許してしまった1990年代のような出来事が繰り返されないよう立ち上がったという。

カタールのドーハで、いわゆるアフガニスタン和平のための合衆国使節ハリルザドを介して米国と協定を結んだターリバーンは、アフガニスタンからの米国およびその他の国の軍隊の完全撤退を要求するだけでなくイスラム首長国の樹立を要求している。このため、ドーハ会談の細かい内容はおろかその本義についても多くの疑問が残されたままで、とにかく現在の状況から見て、現場での合意と並行して秘密の合意に達したのではないかという疑念が強まっている。中でも怪しいのはアフガニスタンから米軍とNATO軍が足早に撤退するのにあわせてターリバーンが軍事行動を激化させていることだ。撤退開始からほんの数か月も経過していないこの時期に。

また、アフガニスタンでのいくつかの出来事はいまだに説明がつかないままだ。たとえば、なぜカーブル空港の治安はトルコ軍に引き渡されたのか?トルコのアフガニスタンでの存在理由がNATO軍の一部であるとの形をとっているのに、そして今日、NATO軍の治安組織の撤退が公式に発表されているのにトルコ軍がアフガニスタンに存在するのは基本的に不当である、と一部のアナリストは指摘している。

アフガニスタンでいま何が起きているのかは当然ながら懸念を深めており、最も心配なことのひとつは、世界中から雇われたテロリストがアフガニスタンに入ってくる可能性の高さだ。月曜日に複数のアフガニスタン情報筋が伝えたところによると、ターリバーンの武装勢力と一緒に、中国の新疆ウイグル自治区からきた戦闘員が認められたという。ISIL(注2)が数日中にターリバーンに加わるか、あるいは別個の要素としての方程式に加わるかもとの懸念がある。シリア、イラク、さらにはリビアなど、この地域で危機に見舞われた国ぐにの経験は、治安機関の崩壊後に治安が危機的に悪化し、世界中からテロリストがこれらの国に集まったことを示している。同じ可能性はアフガニスタンにも存在する。タジキスタンとウズベキスタンなど近隣諸国における国境警備の強化は、今後の危機に対する懸念の証拠なのだ。

一方、ターリバーンはアフガニスタンで影響力を拡大している。彼らは最初に国の南、東、西に侵入したが、今ではタジク、ハザラ、ウズベクの民族が多数住む北部地域に予想に反して侵入した。バダフシャンやバルフからの報告は本当で、マザーリシャリフのターリバーンはそれらの地域に侵入した。そこにいた多くの人びとは家を追われ、避難した。ターリバーン軍によって住居から追い出された人もいれば、政府がまだ状況を掌握している市内中心部に逃げている人もいる。

アフガニスタンの外務大臣であるハニフ・アトマールによれば、国軍は80の地区で撤退して基地から退避するよう命じられ、その後基地はターリバーンの民兵に乗っ取られたという。アフガニスタンの第一副大統領であるアムララ・サリーは、軍隊の退避を諜報的秘密作戦と呼んでいる。それはアフガニスタン政府内に特定のサークルがあり、外国人の指示に従って退避が画策されたことを単純に物語っている。こんなことを続けていればターリバーンは多くの地方要衝を支配することになるだろう。知事や軍の最高幹部を含む政府高官は、チャーター機でカーブルに密かに逃げ出した。退却は、本来なら撤退準備をする低位の軍人には通告されず、この筋書き作りに関与した人びとにのみ知らされた。退避計画が進行中であったのに、なぜバダフシャンに駐留している軍隊には退却の準備をするよう通達されなかったのか。その結果、ターリバーンは都市を占領した後、100人以上を殺害した、とペドラム博士は会議で述べた。これは、北部へのターリバーンの浸透を加速させ民族抗争に火をつけようとするカーブル政権の陰謀の表れだ。国は国に対して剣をあげず、もはや戦うことを学ばない。(旧約聖書イザヤ4章5節)アシュラフ・ガニー政権は、アフガン国民に憎悪と敵意を広めることしかしていない。バダフシャンのターリバーンのほとんどは、以前はジャミアテ・イスラミ(注3)のメンバーであり、賄賂をもらってターリバーンに参加した可能性が高い。彼らはバダフシャンとタカールの先住民であり、主にタジク人とウズベク人だが、パシュトゥーン人が支配するターリバーンの指揮下で直接行動している。

アフガニスタンで戦争がこうも長引き周辺地域も関わりを持ってくると、影響を受ける各国は、戦争をめぐって競争するのではなく、安定したアフガニスタンを構築する役割を果せるよう協力しようと動き出すだろう。そのためにアフガニスタンは、すべての軍事力と政治力が、ある種の連邦民主主義政権として権力を共有しなくてはならないが。パキスタンには、ターリバーン支援をやめさせ、国内でテロリストグループへの避難所の提供をやめさせるべきだ。

これらの不安な情勢とバルフ州内のいくつかの都市がターリバーンへ陥落したため、バルフ州の州都であるマザーリシャリフにあるイランイスラム共和国の領事館は閉鎖され、館員は避難した。トルコ領事館とパキスタン領事館もマザーリシャリフでは閉鎖されている。

米国は別のシナリオのための準備も進めている。政治アナリストによると、米軍のアフガニスタンからの撤退に伴い、ターリバーンが首都周辺のさまざまな地域の占拠を固めるにつれて、アフガニスタンは暗い回廊に入り、カーブルの米国大使館はあらゆる側面から脅かされている。同時に、一部の米国外交官は、弱体なアフガン政府の持続力は信頼できないと信じており、ましてや国内に残るべき外交使節団へアフガン政府から支援があるなどとは思ってもいない。米国大使館は待機状態のようだ。ターリバーンの影響力は安全保障の空白につながり、アフガニスタンの現システムが米国とNATOの軍事支援に大きく依存していることを考えると、ターリバーンは外部からの支援を撤廃させることによって彼らの力を高めようとしている。米国および西側同盟国は、不安定な状況のままアフガニスタンを去る。アフガニスタンで内戦が起こりそうな時期には、近隣諸国と地域が協力して内戦の発生を防ぐ必要があるのに。本質的に、アシュラフ・ガニーは政権から退き、国際機関の助けを借りて現在の危機を解決するために、野党グループとの健全で明確な交渉のできる幅広い層に支持された政府が代わりに立つべきだ。

UAEのアルバヤン紙(注4)によると、政治アナリストのマキシム・ヨウシンは、「アフガニスタンでの米国の頭痛の終焉がロシアの頭痛の始まりになる」と信じている。アフガニスタンからの西側軍の撤退は安全保障上の空白につながるだろう。それはロシアにとって懸念事項だ。アフガニスタンの安全を乱すことは、中央アジアの近隣諸国に問題を引き起こす。これはまた、ISIS(注5)とアルカイーダ(注6)の影響力を高める可能性がある。アフガニスタンで政府が変わると、タジキスタン、ウズベキスタン、キルギスタンだけでなく、ロシア連邦のムスリム共和国にも影響を及ぼすだろうし、アフガニスタンはそのことを試す試験場にされてしまう。

アラブ首長国連邦のアルアイン(注7)紙のアナリスト、アブドゥル・ハミド・タウフィク氏も、「アフガニスタンからの米軍撤退は、米軍撤退後について多くの憶測を呼んだ」と書いている。歴史を通じて、アフガニスタンは紛争の中心であり、地域の国ぐにおよび地域を超えた各国の政策と利益の間の紛争に巻き込まれた。また、ある段階では、アフガニスタンは代理グループを介する多国間の戦場になり、その結果、関係各国は地域の発展と国際関係に影響を与えようとした。現在でも、米軍撤退後のアフガニスタンの動向についての憶測は、この国の内部状況に関係しているだけではない。アフガニスタン独特のイデオロギーと軍事計画、そして特別な政府システムの哲学を支持する者がおり、その後ろにはターリバーンが隠れているからだ。複数の報告が示すように、いくつかの地域のISISとアルカイダ分子はアフガニスタン支配のチャンスを虎視眈々と狙っている。一部の国は、自然的、地理的、政治的、戦略的利益のために、アフガニスタン情勢の展開から影響を受けている。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相がモスクワで話したところによると、数千人のISISテロリストがアフガニスタン北部と東部に存在し、シリアとイラクから逃亡した過激派が加わっているとのことだ。

アフガニスタンは南と東をパキスタン、西をイラン、北をトルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタンと国境を接している。ロシアは、アフガニスタンの北の国境をロシアにとって一本につらなる南の国境と見なしている。アフガニスタンは中国とも国境を接している。米国は、撤退後に残された空白を埋めようとしているいくつかの国の敵のひとつだ。バイデン政権が中国とロシアを米国にとっての主要な対立国と見なしていることを考えると、米国政府は両国をアフガニスタンの沼地に引き込みたいと考えていると推測できる。アフガニスタンの現状は複雑だが、だからといって、米国がアフガニスタンから撤退した後、アフガニスタンで競争する世界の大国が歩みよって合意にいたる機会がないことを意味するわけではない。中国は現在のアフガニスタン政府と連絡を取り合っており、ソフトな経済および貿易投資手段を通じてその影響力を拡大することができる。この計画は、アフガニスタンの情勢が安定している場合にのみ実行され、パキスタンはこれに関与し、北京と利益を共有することができる。中国はまた、相手に合わせて特定の協定を結んで、ロシアや他の国ぐにと協力してすべての当事国の利益を確保することができる。こうした協力関係によって、アフガニスタンからの米国の撤退後に現れる緊張状態を克服できる可能性もある。しかしそれも、陰に陽にターリバーンの支持者であるアシュラフ・ガニーとハミド・カルザイのリーダーシップの下では明らかにありえない。利益と影響力を求めて緊張を引き起こすのではなく、前例のない協力態勢が求められている。ただし、ロシア、中国、パキスタンなどの国々が中心にいる限り、二国間でも多国間でも多くの問題について米国とは意見が一致しない。

アフガニスタンの政治アナリストであるサイーディ氏はジハードの政治指導者があつまる大規模な会議に出席して次のように述べている。「大統領官邸で開かれた会合は緊迫した雰囲気のもと開かれた。そこにはガニー大統領およびアブドラ・アブドラ最高国家和解会議議長が参加した。討議は国民の合意を求めて行われたが、会議の参加者はお互いを敵として眉をひそめて凝視しあっていた。彼らはまだこの国から分け前を受け取っていないとお互いをにらみあっていた。私はアフガニスタンは困難な日々に直面しつづけていると感じた。

彼らの表情に不一致と団結心のなさを見た私は、彼らが国民のコンセンサスを構築する意図を持っていないと確信した。わが国には非常に多くの傑出した人物や政治家がいるが、みなある勢力によって国の意思決定のプロセスからはじき出されている。彼らの孤立は偶然ではなく意図的なものであることを念頭に置く必要がある。同様に、その場所に集まった人びとはアフガニスタンを守るためではなく、どんな妥協も許さずいまの地位と特権を守り抜こうとしている」と。付け加えれば、そんな彼らの地位と特権は、米国の納税者のポケットから邪悪にも盗み取られた金によってもたらされたものであり、その金は本来、アフガニスタンの戦争に苦しむ国民を支援するはずのものであり、外国人エージェント、マフィア、国家の裏切り者、強盗らに与えるためのものではない。

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<編集部注>

(注1)シーア派
イスラム教多数派のスンニー派とイスラム教を二分する宗派でイランのほとんど、アフガニスタンのハザラ族などで多数を占める。アフガニスタンではシーア派が多数。

(注2)ISIL
イラク・レバントのイスラム国(Islamic State in Iraq and the Levant)。イラクおよびシリアを拠点に活動するスンニ派過激組織。「カリフ国家」を自称。両国政府やシーア派などスンニ派以外の宗派、他宗教の住民などを標的としたテロを実行。(公安調査庁)2021年3月時点においては両国における支配領域をほぼ喪失し事実上壊滅状態(Wikipedia)とされているが、アフガニスタンで活動している可能性がある。

(注3)ジャミアテ・イスラミ(協会)
「パンジシールの獅子」とよばれたアフマド・シャー・マスードが所属していたムジャヒディーンの一派。指導者はラバニ。対立したヘクマティアールはヘズベ・イスラム(イスラム党)を分派。1979年にソ連軍が軍事介入すると、ムジャヒディーンはこれに対抗。パキスタン軍統合情報局(ISI)などからの支援を受け、ソ連軍に抵抗した。1992年、PDPA政権が崩壊し、ラバ二が大統領、軍事指導者として主にアフガニスタン内部で戦ったマスードが国防相となった。

(注4)アルバヤン紙
「Al-Bayan」はUAEのドバイ政府が所有するアラビア語新聞。

(注5)ISIS
イラクとシリアで発生したイスラム過激派組織で、ISILやIS、ダーイシュ、「イスラム国」と呼ばれることもある。なおISISは、“Islamic State of Iraq and Syria”(イラクとシリアのイスラム国)の略称を由来としている。(Wikipedia)

(注6)アルカイーダ(al-Qaeda)
イスラム主義原理主義を掲げるスンナ派ムスリムを主体とした過激派。1979年ソ連がアフガニスタンへの軍事支援を開始するとムジャヒディーンの抵抗闘争が始まる。アラブ諸国からアラブ諸国やアメリカ、パキスタンの支援をうけたゲリラ活動家がこれに合流。1988年、すでに参加していたウサーマ・ビン・ラーディンらによって結成された。1990年代以降、2001年のアメリカ同時多発テロ事件や1998年のアメリカ大使館爆破事件等、アメリカを標的とした数々のテロを実行。9.11事件の後、ターリバーンがビン・ラーディンの引き渡しを許したためアメリカおよび同盟軍のタリバン掃討戦が始まりアルカイーダも国外に散った。2011年、ビン・ラーディンが殺害された今も各地で活動している。

(注7)アルアイン(Al-Ain)
アルアインはUAE(アラブ首長国連邦・アブダビ首長国)の東端にある都市。首都アブダビ市に次ぐ規模。隣国のオマーンと国境を接する。UAE大学が立地するオアシス都市。

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