共有元(原文は英語): https://www.usip.org/publications/2022/04/intolerance-atrocity-crimes-ukraine-should-apply-afghanistan
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Intolerance of Atrocity Crimes in Ukraine Should Apply to Afghanistan.
国際社会は、ウクライナでの戦争犯罪を訴追する機運を利用して、アフガニスタンでの残虐行為を調査すべきだ。
The international community should use the momentum around prosecuting war crimes in Ukraine to investigate atrocities in Afghanistan — and beyond.
2022年4月28日(木);ベルギウス・アハマディ、ケイト・ベイトマン、スコット・ワーデン
Thursday, April 28, 2022/ BY: Belquis Ahmadi; Kate Bateman; Scott Worden
2019年9月3日に発生した自動車爆弾の爆発によってできた穴。ターリバーンが犯行声明を発した。(Jim Huylebroek / The New York Times)
ウクライナに対するロシアの侵略戦争は、大量の人命と財産の破壊をもたらし、何百万人もの人びとが近隣諸国に避難せざるをえなくなっている。ロシア軍が戦争犯罪や人道に対する罪を犯し、ウクライナの一般市民を意図的に攻撃していることを示す証拠が次々と出てきている。欧米諸国がウクライナにおけるロシアの戦争犯罪やその他の残虐行為に即座に関心を寄せたことで、重大な人権侵害を行った側に相応の責任を持たせ、国際間の人権法が持つ脆弱な枠組みを補完できる可能性が出てきた。
ただ、ウクライナ人に対する支援の叫びやロシアの責任を問う声は、世界中の暴力的な紛争で同じような運命をたどった人びとに対する差別のようにも見える。犯罪そのものや犠牲者の苦しみよりも、犠牲者の人種や犯罪の起きた場所の違いが重要なのか、という疑問が生じている。2021年の議会向け報告書は、「米国政府が残虐犯罪だと公に非難する手口は…許容できないほど政治的なものである」と評価している。その意味で、今回は国際社会がウクライナの残虐犯罪に即座に対応したため、ウクライナで犯された犯罪に対する責任の追求姿勢を他の紛争の犠牲者に適用できるチャンスが芽生えた。
アフガン人の苦しみを無視するのか
ターリバーンの手による残虐行為に直面しているアフガン人は、政府の上層部に犯人がいるとみなしている。彼らは何食わぬ顔で暮らしているが。同時に、ウクライナでロシアが犯した残虐行為は、アフガン人に、1980年代のソ連軍によるアフガン占領時に体験した残忍な仕打ちを思い起こさせる。過去44年間、人道に対する罪を含む数多くの残虐行為が、さまざまな主体によって行われ、その記録は十分に残されている。
2001年の米国によるアフガン侵攻以来、ムジャヒディン軍閥は何千人ものターリバーンの捕虜を輸送用コンテナで窒息死させたと非難されている。政府が拘束した者を超法規的に拷問し、殺害したことには、信頼に足る証拠がある。 レイプは、女性にも男性にも戦争の武器として使われてきた。米国は、地元の代理軍が残虐行為を行う間、暴力的な虐待を行い、あるいは見て見ぬふりをしたことが明らかになっている。
しかし、何よりも、ターリバーンは、住民を恐怖に陥れ、アフガン政府を弱体化させ、米軍とNATO軍に撤退を迫る手段として、一貫して、民間人に対する意図的な暴力を繰り返し行ってきたのである。 モスクで祈る市民を爆弾で殺害し、犠牲者の葬儀に再び投爆することは、ターリバーンのよくとる戦術で、同様に学校、大学、病院、ホテル、市場、バス、裁判所も攻撃した。これらの攻撃により、何千人もの民間人が死傷し、公共および私有財産が破壊された。
2021年8月に政権を獲得して以来、ターリバーンはジャーナリスト、市民団体や人権活動家、元政府職員などの暗殺、拘束、脅迫を続けているだけでなく、少数派のシーア派をその住居や地所から強制的に立ち退かせている。
アフガニスタンの指導者も、国際的な援助者や外交官も、これらの犯罪に対する正義と責任を追求することにほとんど失敗してきた。2005年にハミド・カルザイ大統領によって承認された「移行期正義行動計画」は、2007年にアフガン議会が自分勝手な恩赦法を可決し、ターリバーンによる犯罪の国内での訴追を阻止したため、事実上無効となった。
アフガニスタン独立人権委員会が1978年から2001年までの紛争の全当事者による残虐行為を網羅しまとめた「紛争マッピング報告書」は、著者への脅迫と加害者よりむしろ委員会自体が罰せられるという現実的な恐れから、公開されることはなかった。
2003年にアフガニスタンは国際刑事裁判所へ加盟したが、初めての犯罪調査が始まろうとしたとき、調査によってアフガニスタンでの米軍の行為に不愉快な質問が投げかけられることを懸念し、米国は静かなる反対をしたのである。
ターリバーンやイスラム国ホラーサーン州(IS-KP)は、これまで国際社会に注目されていなかったため、ある意味免罪されてきた。 ターリバーンはお得意のジハードの考えに則り、結果として戦争法を無視するというやり口をもっぱら使い、外国軍を追い出すという目的がどんな手段をも正当化した。ターリバーンやIS-KPの上級指導者の何人かは制裁を受けているが、これは反テロリズムの法令に基づくもので、戦争犯罪や人道に対する罪のためではなかった。前者はターリバーンによる国際社会への脅威に対する反応であり、ターリバーンの犠牲となったのは主にアフガン人たちだったために、彼らの苦しみに対しての反応はなかった。
アフガニスタンにおけるICCの活用
2020年3月、国際刑事裁判所(ICC)は、2002年7月以降にアフガニスタンで行われた戦争犯罪に対して、主任検察官による捜査開始を最終承認した。ターリバーンが政権につくと、検察官はターリバーンおよびIS-KPによる犯罪へと捜査の焦点を移すと声明を出した(訳注:2021年9月27日付)。これら集団によるものと「申し立てられた犯罪の重大性、規模、継続性」を鑑みての決断だと言う。
アフガニスタンにおける戦争犯罪の加害者に対して起こされた一握りの訴訟とICCの捜査は、前向きなステップである。しかし、責任を追求する世界的な支援の度合いを物差しとして測るなら、アフガニスタンで40年以上続く戦争犯罪に対し、国際社会はほぼ完全に無関心だった。対照的に、ロシアによるウクライナへの多面的侵攻から6日目で、ローマ条約締約国たる40カ国がウクライナ情勢をICCに訴え出ている。
その2日後、国連人権理事会は、ロシアのウクライナ侵略を背景とするあらゆる人権侵害の申し立てを調査する委員会を立ち上げた。またEU、各国政府、非政府組織による調査活動も進められている。バイデン政権は、ウクライナにおける戦争犯罪の申し立てについて、最終的な訴追に利用できる情報を収集・評価しているとされ、国務省は、米国の情報機関がロシア軍による戦争犯罪の証拠を得たと発表している。アフガニスタンの犠牲者たちは、このレベルの関心がアフガニスタンによせられることを待ちつづけている。
正義の二重基準なのか?
ウクライナ人のために即座に関心を示し行動を起こした理由のいくつかは、明白で直感的に理解できると思う。ロシアのウクライナ侵攻は世界に衝撃を与え、リアルタイムに伝わる大規模な戦争報道は世界中の観客に物語を提供し、ウクライナ国民の懸命の抵抗は人々を感動させた。これとは対照的に、アフガニスタンでは戦争犯罪が政治的に対処され、その責任を追及するべき国際社会もアフガン政府も無関心を装うことができた。それがウクライナとの違いだ。
しかし、国際社会によるウクライナへの対応とアフガニスタンなど近年の紛争への対応の違いには、もっと多様な背景があると思われる。非西洋地域の非白人集団の中で遂行され、犠牲者も戦闘員もほとんどがイスラム教徒だった「テロとの世界戦争」とは異なる物語として、ウクライナ紛争はうまく伝わり、人々に異なる先入観を植え付けた。 第二次世界大戦後の国際人道法とその制度的構造を構築したのは主に西洋諸国である。そして、この同じ西洋諸国がいま、最初にこの法規範を作り出すに至った状況が再来し正義が踏みにじられていることに対し、より強い懸念を示しているように見える。つまり帝国的野心を持つヨーロッパの国家が他のヨーロッパの国家に対して明確な侵略戦争をまた始めたのだ。
さらに、非西洋諸国における「テロとの世界戦争」をめぐる言説には、厄介な物語がついてくる。それを知れば、アフガニスタンで残虐行為を非難するのに対する無関心について、何か別の知見が得られるかもしれない。一般に民族紛争の要因を理解し、説明しようとする努力は、時として民族グループや部族を戯画化し、原初的・永続的に紛争好きな連中だと茶化してきた。それは、ある文化ないし国家は暴力および人的な被害または苦痛に対してより高い耐性を持つという勝手な言い分と微妙につながった。残虐行為の加害者を非難するには西洋がより強い行動をとらねばならないのに、このような認識に立つことで、逆に西洋はうまく責任逃れができる。
そんな認識に立てば、アフガン紛争の当事者である米国と大半が西洋たるその同盟国が、いかにして危害を及ぼしたかが見えなくなる。つまり、残虐行為を行ったアフガニスタンの同盟軍や指導者を非難できなかったことを隠し切れる。
ウクライナも戦争犯罪の責任を追求するうえで障害に直面しているが、その障害を克服すべきものとして目下対処中である。困難な行動を取らずに済ませる言い訳にしてはいない。ロシアは国連安保理で拒否権を持ち、国連による制裁を回避することができる。ウクライナはまだ戦闘地域である。しかし、法医学の専門家がブチャに集結し、新鮮なうちに証拠を集めようとしている。アフガニスタンでも同じような粘り強さが有効だろう。
アフガニスタンにおける残虐な犯罪にどう対処するか
国際社会は、ウクライナにおける残虐行為の捜査と訴追にまつわる積極的なエネルギーを利用して、現在進行中のすべての残虐行為を等しく精力的に捜査する機運と資源を構築すべきである。アフガニスタンでは、残虐犯罪に対する米国の対応を改善するために、以下のことが必要となろう。
第一に、米国と広範な国際社会は、ウクライナでの残虐行為に即座に焦点を当てたことを、例外ではなく規範として扱うべきである。ウクライナでの犯罪を議論する場を利用して、戦争による残虐行為のすべての犠牲者に正義が与えられるべきだと指摘するのだ。そしてその言葉を財政的・政治的支援で補完して、アフガニスタンでの残虐行為を調査する。同時に、戦争犯罪や人道に対する犯罪が発生したかどうかを米国政府が調べ直す。
米国はICCに加盟していないが、バイデン政権が同裁判所との協力を強化したことは評価できる。アフガニスタンなどの事例では特に身を乗り出して、持っている情報を捜査当局や検察当局と共有すべきだろう。米国のさまざまな政府機関は、ターリバーンの攻撃やその他の集団犯罪に関する詳細な情報を持っている可能性が高いので、それを共有することもできるだろう。
政治的あるいは治安上の理由で裁判がすぐにできない場合でも、証拠を集め、犯罪を文書化することは、後に完全な責任追求を果たすための最良の機会を提供する。迅速に聞き取りを行い文書化しておけば、正義の遅延は免れなくとも、正義の否定は避けられるので、継続するべき手段だ。国連人権理事会のアフガニスタン担当特別報告者は新たに任命され、残虐行為を調査する権限を持つが、資源も人員もほとんど与えられていない。彼の資源と人員を量的に充実させることは、アフガニスタンでの残虐行為の犠牲者のために本気で正義を目指すことをアピールする良い方法である。また、アフガニスタン独立人権委員会はそのマッピング報告書の公開を検討すべきだ。それは、アフガン紛争の様々な局面における残虐行為の連鎖を止める方法について議論を新たにする一助となる。ひとたびその一連の所業を見逃せば、犯罪者たちは大手を振って新たな抗争の場面に繰り出すのだ。
特にターリバーンの場合、その指導者がしばしば「テロリスト」のレッテルを貼られ、国の内外でテロを支援する役割を果たしたとして国連と米国の制裁下にある者もいるが、「戦争犯罪人」のレッテルを貼られることは(たとえあったとしても)めったにないというのは注目すべき点だ。しかし、ターリバーンの反乱は、恐怖と怒りを引き起こしているロシアのウクライナ攻撃と非常によく似た戦争犯罪に大部分を頼っていた。
ターリバーンが国際的な承認と正当性を求めている以上、その要求に応じて世界が検討しなくてはならない点の一つは、明らかに違法な行為に対するターリバーンの責任である。ある個人が犯した戦争犯罪やその他の残虐行為も、その責任を問うための信頼できる証拠があれば、個人的な制裁をさらにつけ加える根拠となるべきである。ターリバーンのメンバー全員が戦争犯罪に責任があるわけではないし、本当にターリバーン以外のグループ内部でも、メンバーが個人的な残虐行為を行っている場合がある。
国際的な法と正義の第一原則によると、残虐行為を故意に犯した個人が個別にその責任を負う。国際犯罪の被害者についても平等に扱われるべきだ。そうすれば、ウクライナ人もアフガン人もその他の被害者も、正義とまみえる平等な機会を享受できる。
『ウエッブ・アフガン』で要約が紹介された「アフガニスタン・ペーパーズ」をまとめたアメリカ政府。さかのぼれば、ベトナム戦争でアメリカが侵した数々の失敗や犯罪を、自分自身で記録し秘匿していたアメリカ。そしてそれを命がけで暴露するジャーナリズム。ベトナム戦争での戦争犯罪も不十分とはいえ調査し裁いたアメリカ民主主義。限界があり、ダブルスタンダードだと批判されるアメリカだが、ここまで建前の正義を押し通す国はほかにはない。ロシアをみよ、中国をみよ、と言いたいが、では、日本はどうだ。政府や議会やジャーナリズムはこのアメリカの実践に比べてどうだろうか。ここに掲載されているこの提言も、アメリカ議会自身が議員にむけて提出する提言なのだ。頭をたれて拝聴するべし。
タリバンに代わってゼレンスキーが登場するまで待つしかありませんね。
アフガニスタンのゼレンスキーですね。