Knowledge without action is wasted, action without knowledge is stupidity
Imam Ghazali (1058-1111)

 行動なき知識は無駄であり、知識なき行動は愚かである 

ガザーリー師(脚注1)

 

(WAJ: アフガニスタンの平和と進歩のためにヨーロッパを中心に世界で活動しているファリダ・アフマディさんに今年も国際女性デーに際してメッセージを寄せていただいた。彼女はアフガニスタンや中東からノルウェーに来た難民の状態を調査し、多文化社会の構築にむけて努力しているノルウェーにおける難民(特に女性)が抱える新たな問題に対して鋭い指摘をしている。末尾に彼女の仕事の一端をまとめたので参考にしてほしい。)

 

2023年3月8日 国際女性デーに際して

ファリダ・アフマディ

 

この言葉は12世紀に書き残されましたが、今日でも同じように通用する思想です。2023年3月8日(訳注:国際女性デー)に関連して、私はガザーリーの名言に焦点を当てます。行動と知識のバランスを見いだすのは重要だからです。そしてそのことを、アフガニスタンの長い戦争での女性の抑圧に関連させて考えます。「政権が変わるたびに、女性は気をつけなければならない」――これは、私が人生の黄金期と呼ぶべき平和な青春時代に、早くから受けた警告です。この警告は、物知りな祖母から受けたもので、私がアフガニスタンでのその後の人生を送る上で、基本中の基本とするものです。

アフガニスタンでの戦争と占領を長く経験してきた私は、戦争プロパガンダの中で女性がいかに虐待されたかを知っています。アフガニスタンはイギリスに対して3回血なまぐさい戦争をしたけれども、イギリスはアフガニスタンを植民地化することはできませんでした。しかし、イギリスの植民地行政は、1919年の独立後に書かれた法律や規制を取り除くことに成功しました(脚注:2)。ソ連は、女性を封建主義から「救う」ためにアフガニスタンを占領しました。アメリカと西側諸国はテロと戦い女性を「解放」するために占領しました。ターリバーンが政権を握った今、彼らは同じようなレトリック―女性を「保護」する―を持っていますが、これは再びイスラームの名の下に女性を無視する隠れ蓑となっています。

私にとって、ターリバーンが権力を掌握したことは驚きではありません。アメリカがターリバーンを正統化するために動き、カタールに彼らの公式事務所を開設したのは明白です(訳注:2013年6月、ドーハ郊外に開設)。これは重要な経済プロジェクトであり、カタールが欧米の制度を通じた経済統合の一翼を担うことにつながりました。オリンピックはそのよく知られた例です(訳注:2022年のサッカーW杯を実施したカタールは2032年の夏季オリンピック開催に向け動き始めている)。こうした米国が支援する大きなプロジェクトを通じて、今日に至るまで、私の国民は犠牲になり、アフガニスタンの女性たちは息苦しくなっています。

米国のターリバーンとの和平交渉は、知識のない行為であったため、無駄になってしまいました: 和平交渉の条件のひとつは、当事者同士が停戦することです。しかし、カタールで和平交渉が行われている間に、ターリバーンは自爆テロで多くの人を殺害しました。アメリカ人の無知な行動は愚かで、20年間のアフガニスタンでの軍事支配の間に彼ら自身が再建に貢献した国家を弱体化させた許しがたいものでした。これは、アフガニスタンの人々の犠牲の上に起こったことであり、苦しみを助長し、集団的な悲しみをもたらしました。

以上の出来事は、米国がアフガニスタンの混乱に乗じる必要があったためと解釈されるかもしれません。この不幸はすべて、国際社会が起こっていることに批判的な目を持たず手をこまねいている間に起こりました。そうした無知な行動が重荷となって、何百万人もの人々の運命にどのような影響を及ぼしたのかを記録し研究することが必要です。それが後にアフガン国民の悲劇となったのですから。

ボイス・オブ・アメリカのインタビューで、私はターリバーンにメッセージがあるかと聞かれました。彼らは自分たちの歴史を読み、イスラームの学者であるガザーリー師が言ったように知識を見つけなければならないと私は答えました。

私は今、私の息子かもしれないターリバーン兵士に訴えます。パキスタンの宗教学校で過ごした40年間、あなたがたは学び、知識を得ることがありませんでした。宗教学校が教えたのは、死後の生活についてだけで、楽園に行ってそこで女性たちを楽しむということです! 私たちは、死ではなく、今ここにある生命に焦点を当てなければなりません! あなたがたは、強い外国が肩にかけさせた殺人の道具を下ろさなければなりません。

偉大で高度な文明を持った私たちの帝国、今ではイラン、アフガニスタン、パキスタン、インド…と呼ばれていますが、そこには幸いにもイスラーム国家を統治していた誇り高い女性たちを伝える資料が残されています。当時の私たちの社会秩序では、最高の知識と知恵のある者が社会の頂点に登りつめることができました。その例として、多くの名詩を残した詩人ゴーシャ(脚注3)を挙げることができます。

今日、私たちはグローバル化した世界に住んでおり、変化は光速で起こり、知識の動きは社会の動きのペースと平行していないのが現状です。そこで、「私たちの行動は知識に基づいていなければならない」というガザーリーの言葉を改めて考えてみることが大切です。

グローバリゼーションは、私たちを統合することもあれば、分裂させることもあるという、二つの相反する効果をもたらします。分断、特定のアイデンティティ、そして自分の民族に焦点を当てれば、他者に対する憎しみや恐怖を育むことができます。これは現在、アフガニスタンをはじめ、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの紛争地で起きていることです。親愛なる国際社会の皆さん、見物人になってはいけません! アフガニスタンを一緒に再建していきましょう。男と女、色とりどりの民族、美しく貴重な自然、緑豊かな風景、人間の欲求を満たすものすべてを備えた楽園として。それが、私たちの進むべき道です。

女性には潜在的な力があり、重要な人的資源です。女性が正しく行動するためには、変化をもたらす武器となる知識を持たなければなりません。今日の激動する世界において、宗教、民族的背景、国籍に関係なく、私たち女性は地球規模の義務を負っています。地球は私たちの共通の故郷であり、ガンディーがインドを植民地支配から解放したように、非暴力の原則を緊急に必要としています。

戦争や破壊、女性への抑圧を止めるために、分裂ではなく団結する必要があります。世界中の女性は、日常生活の中で平和の作り手、キャンペーンの実行者、そして外交官になる機会を持っています。

知識に基づく行動により、新しい世界秩序を作ることが可能になり、そこでは国連行政がより強い執行力を持ちます。私たちは、世界の良心を現実化することができます。国際女性デーおめでとう!

ファリダ・アフマディ – グローバル・ハピネス(脚注4)の創設者。

 

ファリダ・アフマディ(Farida Ahmadi)さん略歴
1957年3月、カーブル生まれ。カーブル大学で医学を学ぶ。カーブルで2度投獄され、4カ月にわたって拷問を受けた。1982年に釈放されアフガニスタン郡部で抵抗運動に参加、同年12月にパリのソルボンヌでラッセル平和財団(戦争犯罪法廷)の活動に参加。1983年に世界中を旅して自身の投獄や拷問の経験、ソ連独裁や原理主義との戦い、女性解放運動について訴え、レーガン大統領、サッチャー首相、ローマ教皇をはじめとする権力者や団体と面会してアフガニスタンの民主化勢力への支援を求めた。1983年末に帰国し、イランやパキスタンを訪問。1991年に当時5カ月だった娘とパキスタン経由でノルウェーへ亡命し難民として生活しながらオスロ大学で人類学を学ぶ。そこでの修士論文をもとに『声なき叫び(Silent screams)』(石谷尚子訳、花伝社、2020年)を執筆。(経歴は同書より)

 

『ウエッブ・アフガン』でのファリダ・アフマディ(Farida Ahmadi)さんの発言
実行力ある新しい連合国家を求める―イランの抗議行動にふれて
・アフガン人の血の色とウクライナ人の血の色は違うのですか?
もし一度だけ魔法がつかえたら(2022年国際女性デーに寄せて)
ターリバーンと欧米各国代表がオスロで会談
難民・移民の「痛み」はどこから来る?
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(脚注1:ムハンマド・ガザーリーまたはアル=ガザーリー。11世紀末、セルジューク朝のイスラーム教スンナ派の神学者で、ニザーミーヤ学院の教授であったが神秘主義に転じ、神秘主義の最初の理論化をおこなった。https://www.y-history.net/appendix/wh0504-012_1.html 参照)
(脚注2:1919年に独立を達成したアフガニスタン国王アマーヌッラー・ハーンは、北で成立したソ連政権を世界で初めて承認しレーニンと親交を結ぶなどして女性解放を含む開明的な政策を推進したが、国内での強権手法や国内の反乱を支援したイギリスの妨害などにより1929年退位しイタリアに亡命)
(脚注3:古代ヴェーダ時代の インドの女性哲学者および先見者。 https://en.wikipedia.org/wiki/Ghosha 参照)
(脚注4:著者のファリダ・アフマディさんが主唱する世界平和と正義のための思想。http://www.faridaahmadi.com/en/ 参照 )

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