The West Is Preparing for Russia’s Disintegration
西側はロシアの崩壊に備えている

APRIL 17, 2023, 4:44 AM <FP: foreignpolicy.com>
By Anchal Vohra, a Brussels-based columnist for Foreign Policy who writes about Europe, the Middle East and South Asia. FP subscribers can now receive alerts when new stories written by this author are published.

2023年4月17日 4:44 AM <フォーリン・ポリシー ドット コム>
著者:アンカル・ヴォーラ(Anchal Vohra/フォーリン・ポリシーのコラムニスト、ブリュッセルを拠点に欧州、中東、南アジアについて執筆)

(WAJ: 1991年のソ連邦崩壊の原因をアフガニスタン戦争でのソ連の敗北にもとめる説がある。しかしそれは間違っている。同様に今回のウクライナ侵略戦争の失敗がロシアを崩壊させる、との主張もある。両方とも真実の一面の反映にしか過ぎない。それらは崩壊を早めるきっかけとはなったが真の原因は内部における社会システムの矛盾の極大化にある。全面戦争に踏み切れず「特別軍事作戦」としてモスクワやサンクトベテルブルグなどの大都市からでなく地方共和国、自治体や刑務所などからの動員で乗り切ろうとする政策と西側諸国からの経済制裁によってロシアの内部矛盾は極大化に向かっている。西側、とくにアメリカはソ連邦崩壊時に収奪しそこなった膨大なロシアの地下資源に狙いを定め「ロシア崩壊の道筋」を策定しつつある。『フォーリン・ポリシー』に掲載されたこの分析記事は、そのようなアメリカおよび西側諸国の論調を鮮やかに記述している。ロシアを崩壊に誘おうとしている西側勢力の意図に対して、正しく対応できなければ、プーチンロシアは確実にソ連邦の二の舞を演じることとなろう。歴史は繰り返されつつある。)

ウクライナ戦争の中、ロシア全土の「非植民地化」を視野に入れる戦略家もいる。

ウクライナの戦場でロシアの不振が続き、プーチン大統領の核の脅威を額面通りに受け取ってはいけないという考えも広まって、欧米のアナリストやロシアの反体制派は、ロシア全土の「非植民地化」を公言するようになっている。ここでいうロシアとは、ソビエト連邦の後継で、非スラブ系21共和国を含む83の構成国からなる広大なロシア連邦のことである。

米国政府の独立機関である欧州安全保障協力委員会は米国下院、上院、国防省、国務省、商務省より選ばれたメンバーからなり、ロシアの非植民地化を 「道義的、戦略的目標」 とすべきと宣言している。ロシアから亡命した政治家やジャーナリストで構成される「ポスト・ロシア自由国民フォーラム」は、今年初めにブリュッセルの欧州議会で会合を開き、今月はアメリカの異なる都市で3つのイベントを開催すると宣伝している。さらに、プーチンがウクライナで敗れ、追放されたと仮定した場合の、41の異なる国に分かれたバラバラのロシアの地図も発表している。

参考サイト(欧州安全保障協力委員会)
https://www.csce.gov/

(ポスト・ロシア自由国民フォーラム)
https://freenationsrf.org/

欧米のアナリストたちは、ロシアの崩壊が近づいており、欧米は内戦の波及に備えるだけでなく、資源に恵まれた後継国を後釜に誘致して崩壊の恩恵を受けなければならないという説を唱えるようになってきている。1991年にソビエト連邦が崩れ去ったとき、西側諸国は不意を突かれ、この重大な機会を十分に生かすことができなかった、と彼らは主張する。今こそ、プーチンに出口を与えるのではなく、ロシアの脅威を一掃するための戦略を立てなければならない。

しかし、他の多くの人々は、ロシア崩壊後の残党が世界の平和と安全にとってより深刻な脅威であると考え、軍事的・経済的に西側諸国より弱いとはいえ、6,000発近い核弾頭、武装した民兵、そして中国との国境にある人口の少ない景観に膨大な資源を閉じ込め所有する敵を骨抜きにするのは危険だと警告している。

ジェームズタウン財団(訳注:首都ワシントンに基盤を持つ保守系シンクタンクで、国防にかかわるロシア、中国、その他ユーラシアの情報に詳しい)のシニアフェローであるヤヌシュ・ブガージスキー(Janusz Bugajski)は、最近『Failed State: A Guide to Russia’s Rupture』(失敗国家:ロシア破産への手引き、訳注:邦訳未刊)という本を書いた。彼は、欧米の制裁がロシア経済を圧迫し、「多くの連邦国家内で予算縮小に対する不穏な空気が漂っている」と主張する。彼はプーチンに撤退後の安全保障を提供することに反対を唱えている。

参考サイト(ジェームズタウン財団)
https://jamestown.org/

この考えに賛同する他の人々は、プーチンがウクライナで敗北すれば、彼の強者伝説は壊され、弱い指導者であることが露呈すると言う。非スラブ系共和国のエリートたちは、モスクワが自分たちの懐を満たすほど豊かでもなく、自分たちの不平不満を粉砕するほど軍事力があるわけでもないと感じれば、立ち上がるはずだと。

ベルリンにある欧州回復力主導センターの代表で、ロシアのビジネス放送局RBC-TVの元編集責任者であるセルゲイ・サムレニー(Sergej Sumlenny)によると、プーチンは多様な国々をコントロールする手段として、その国のエリートを腐敗させ、チェチェン風の紛争の恐怖を植え付けたと言う。

参考サイト(欧州回復力主導センター)
https://european-resilience.org/

1991年、ソビエト連邦が瓦解した後、ロシアからの独立を宣言したのは14カ国だけだった。その数年後、独立を目指すチェチェンでは、独立運動の意欲を削ぎそれを頓挫させるために、血みどろの作戦が仕組まれた。同時にプーチンは徹底した中央集権政策をとり、本来自治領であるはずの共和国をモスクワの支配下にしっかりと沈め植民地化した。

しかし、ウクライナ戦争は、プーチンがそれまで培ってきたイメージにそぐわぬ、幻滅し弱々しい男であることを露呈した、とサムレニーは主張した。

(ロシアで)彼は無敵の指導者と見なされ、ウクライナは弱くて難なく倒せると見られていました」と、サムレニーはベルリンからの電話でフォーリンポリシーに語った。「しかし今では誰もが、共和国や領域各国の支配的なエリートを含めて、モスクワには資金も強力な軍隊もないことを知っています。もしあなたがマフィアのボスなら、最悪の事態は、自分が言い張っていたほど強くはないと部下たちに突然気づかれることでしょう。

ロシア連邦の各地では、何年も前から不満や怨嗟の声が上がっていた。モスクワから8,000キロ離れたロシア極東のハバロフスク地方では、2020年に偽りの罪で知事が逮捕されたことに抗議し、何カ月にもわたって数千人規模の抗議が続いた。自分たちがリーダーに選んだ男であるセルゲイ・フルガルを拘束するよう命じ傀儡に置き換えたクレムリンは自分たちの票を盗んだのだ、と人々は非難した。

参考記事
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023021100361&g=int

同じ年、バシコルトスタン共和国の抗議者たちは、彼らが神聖な丘と崇める場所での石灰岩の採掘に反対して扇動した。またそれに先立ち2018年から19年にかけては、モスクワの北1,100キロに位置するアルハンゲリスク地方で、ロシア政府がモスクワのゴミを運び込み、その地をゴミ捨て場とするのを阻止しようと、住民たちが道路を封鎖し、テントを張った。

タタールスタン共和国では、じわじわと民族主義運動が広がっているが、その端緒はロシア語を押し付けられたり、キリル文字からラテン文字への切り替えを禁じられたことで、それはまさにタタール人による文化的自治権の拡大を求めた戦いである。バシコルトスタンでもまた、地元の言語を守るための抗議活動が起こり、「NO言語、NO民族」などのスローガンを使用している。

さらに最近では、プーチンが一部地域を標的とした兵力動員を発表し、貧しい地域から不釣り合いなほど多くの徴兵を実施したことが、国内各地での抗議運動に火をつけた。ブリヤート共和国では、「自由ブリヤート財団」が設立され、予備役が徴兵を回避する手助けをしている。ダゲスタン共和国とチェチェン共和国の両国は、後者は指導者のラムザン・カディロフ(Ramzan Kadyrov)がプーチンに忠誠を誓っているにもかかわらず、徴兵枠をすでに満たし追加はないと述べた。サハ共和国のヤクーツク市では、女性たちが集まり、「子どもたちの命を守れ!」と唱えた。

参考サイト(自由ブリヤート財団)
https://freeburyatia.org/en/home/

専門家は、過去のこうした抗議行動を引き合いに出して、連邦内に緊張が長く存在していたことは明かだとする。今回の反動員を訴える主張によって一本化が進み、ロシア各共和国の独立運動が統合されると信じる者もいる。そうであるかも知れない。しかし、今のところ、そのような考えは、強力な地下運動の存在を示す具体的な情報や証拠というよりも、むしろ希望に基づいているように思われる。

ロシアがただちに崩壊すると唱える人々によるあらゆる主張に対しては、より多くの反論が存在する。ただロシア政府によって意図的な情報の空白が維持されているのが真実であって、情報がないから崩壊するとはいえない。

ロシア内の自治共和国にいる市民たちにとって、プーチンは恐怖の対象かもしれないが、反プーチンが必ずしも反ロシアを意味しないことは専門家のよく指摘する所だ。また、本気でロシアの縛りから逃れたい国であっても、その行き着く先が民主的であったり、欧米に友好的であったりする保証はない。専門家は、ロシア極東の多くの地域がすでに中国に傾いていると懸念している。そうであるなら、内戦が起こり各地の独裁者がロシアの核をめぐって争うことも懸念される。

ユコス石油会社の元CEOで、その後ロシアの政治犯となったミハイル・ホドルコフスキー(Mikhail Khodorkovsky)は、ロシアが平和的に崩壊することを否定し、かならず地域戦争を伴うと警告した。「まず、ロシアでは輸送と経済のメカニズムが同一で、それに縛られているのです 」とホドルコフスキーは説明した。つまり資源が豊富な地域のほとんどが海にアクセスできないと言うのだ。「これは、いずれ対立を生み出します。人口が比較的少なくても膨大な資源を持つ地域と、人口が多く資源の輸送手段を持つ地域との間の対立です。」これらの異なる地域が国境をめぐって争い、核兵器を使おうとするなら、西側諸国にとっては悪夢である。

ホドルコフスキーは付け加えた、その後プーチンの代わりに別の独裁者がモスクワに現れ、失われた領土を取り戻すことになる、と。「互いに戦争し、核兵器とその運搬手段を保有する15から20の新しい国家が生まれます。西側はそれにうまく対処できるでしょうか?」とは彼の問いかけである。「その後、独裁者が国を再統一しますが、彼は軍隊と貧困にあえぐ(もっぱらロシアの)大衆の意をくみます。そんな敵に西側は対処できるでしょうか?

クレムリンは日頃から西側諸国がロシア国内の問題を煽っていると非難し、それには慣れたものだが、西側の各政府がロシアの崩壊について話し合っているとなれば、民族主義的熱狂が高まり、全ロシア人がプーチンの支持に回るかもしれない。また、ヨーロッパ中のプーチンを支持する極右勢力が反米主義を強めるために、かかる熱狂を利用することもできる。さらに悪いことには、偽情報を垂れ流す連中の好餌となり、陰謀論者たちがオンラインで引用しあって、もっと酷い絵空事が紡ぎ出される可能性もある。

英国王立安全保障研究所(訳注:1831年に創設された防衛・安全保障分野における世界で最も古いイギリスのシンクタンク)の欧州支部で上級研究員を勤めるジョアナ・デウス・ペレイラ(Joana Deus Pereira)は、ロシアの崩壊は「到底あり得ません」と述べた。西側でこのような話がほのめかされるならば、逆に「プーチンの魅力」に花を添えることになると彼女は付け加えた。そして民族主義的ロシア人がその話をどうとらえるかについて、もっと視野を広げるよう次のように語った。

参考サイト(英国王立安全保障研究所欧州支部)
https://rusieurope.eu/about-us/

ソビエト連邦が崩れ去った後に、ロシア人はヨーロッパに近づくだろうと言われました。」ところが「そんなことは無く、そう言われたことがロシア人のプライドを傷つけました。

その線でプーチンの初期の演説を見返してください、ひざまずいたロシアを必ずや屈辱から救い出すと言ったことがあります。私たちはプーチンを観察し追っていますが、彼は絶大な支持を受けています。そのためロシアを分裂させようとする話や試みは、彼を助けるだけなのです」とペレイラは語った。さらに、非スラブ系の共和国や地域は、ロシアの崩壊を本当に望んでいるわけではなく、「ロシア連邦内で自分たちの地域が高く見られ、自分たちの旗が認められ、より文化的に独立することを望んでいるだけなのです。

ロシアは今にも崩れ去ると考える人々も、それを避けようと注意する人々も、1つの点で一致している。つまり、前述のホドルコフスキーによれば「ロシア連邦は決して本当の意味で、そうですね、連邦ではなかったのです。そこでは脱中央集権こそが鍵となる概念でした。」彼によると、今回の制裁を解除するのがいつになろうと、西側諸国はロシアの各地方から法的権威を与えられた政府を交渉相手としなければならない。

そのことが、ロシアの連邦化へと天秤を傾けます」とホドルコフスキーは締めくくった。

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アンカル・ヴォーラ(Anchal Vohra):ブリュッセル在住のフォーリン・ポリシー誌コラムニスト。ヨーロッパ、中東、南アジアについて執筆。タイムズ・オブ・ロンドンで中東を取材し、アルジャジーラ・イングリッシュとドイチェ・ヴェレのテレビ特派員も務める。以前はベイルートとデリーに駐在し、20数カ国で紛争や政治に関する報道に従事した。
Twitter: @anchalvohra

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One thought on “<strong>西側はロシアの崩壊に備えている</strong>”
  1. 今日のYahooニュースで「ロシア軍とワグネルが銃撃戦、死者も──ウクライナ軍発表」というニュースが流れてきました。Newsweekです。同誌だけでなく西側報道では同種の報道が増えてきました。ロシア軍は昨年2月24日の侵略開始以前の状態に軍を引くしかないと思います。それをやらない限り、事態は予測の通りになるでしょうね。6000発もの核兵器を持った国の崩壊など、考えるだけでぞっとします。
    ロシア人には、レーニンが第1次大戦を「祖国敗北主義」をかかげて革命を成功させ平和を実現した歴史を思い起こしてほしいですが、いまやその偉大な史実も汚点と考える人々が多数いるのでしょうね。「歴史は繰り返す、ただし2度目は惨劇として」、となりそうです。

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