Expectations of Pakistan from the Taliban
By: Shujauddin Amini
By Hasht-E-Subh Daily Last updated May 25, 2023
シュジャウッディン・アミニ
ハシュテ・スブ・デイリー 2023年5月25日
(WAJ: パキスタンがターリバーン創設と育成にかかわる理由はアフガン・インド両国との領土紛争およびインドからの生存政策にある。軍事的にはインドにたいする背後を確保する「縦深戦略」、政治的にはアフガニスタンの内政に干渉する「影響戦略」に起因している、とこの記事は指摘している。パキスタンにとってデュランドラインとパシュトゥーン問題が国の存亡にかかわる難問であることが理解される。この問題の解決なくしてアフガニスタン、パキスタンの平和はないだろう。だが、ターリバーンがパキスタンに恩を感じ思い通りに動いてくれる保証はない。)
パキスタンはターリバーンを創設し支援したと言われており、域内の他国および西側諸国よりも当該集団を大きく揺り動かす力を持っている。この関係は、パキスタンがターリバーンに対して持つ影響力に由来している。パキスタンで訓練を受けたターリバーンの指導者や幹部の多くは、パキスタンに家を持ち事業を行っている。ターリバーンは、長年にわたりパキスタン軍や諜報機関から受けてきた政治的、技術的、教育的支援に加え、過激派政党、宗教保守派、学校など、パキスタンの特定の非政府組織と強いつながりをもっている。これらのつながりが、ターリバーンに資金援助、武器、戦闘力を提供している。
米国と旧アフガン政府は、パキスタンを介してターリバーンを説得し和平プロセスへと参加させた。これは同国がターリバーンに及ぼす影響力を示すものであった。パキスタンがターリバーンに対して持つ影響力を示す例は、他にも数多くある。ハミド・カルザイ(Hamid Karzai)元大統領を含むアフガニスタンの元政府関係者は、アフガニスタンの平和と戦争の終結はパキスタンのコミットメントに依存しているとしばしば述べている。「アフガニスタン和平の鍵はパキスタンにあり、ターリバーンはこのプロセスには関係ない」と。これらと同様の発言は、パキスタンがターリバーンに与える影響力を示している。パキスタンは、ムジャヒディーン政権に対してターリバーンを支援した国の1つだった。さらに、パキスタンはターリバーンのアフガニスタン支配を認めた最初の国(訳注:1996年の第1次ターリバーン統治)であり、サウジアラビアとアラブ首長国連邦がそれに続いた。
9月11日の事件後、パキスタンは米国に味方するか、ターリバーンに味方するかという難しい決断を迫られた。米国は、ターリバーンやアル=カーイダを排除することを主目的とした反テロリズムの運動を主導していた。パキスタンは自国の生存を優先し、反テロリズムの流れに乗ることを選んだ。それはジョージ・ブッシュ大統領が「協力しないならパキスタンを爆撃し石器時代に戻すぞ」と警告したからだと言われている(訳注:2006年になってようやくこの件をムシャラフ大統領が暴露したが、米国は否定)。パキスタンはそれまでずっとターリバーンとの友好関係を隠していたし、両者が親密な関係を再構築したと報じられることは当時一切無かった。
参考記事
https://www.theguardian.com/world/2006/sep/22/pakistan.usa
https://www.nbcnews.com/id/wbna14943975
米国がアフガニスタンで強い存在感を示し、ターリバーンやアル=カーイダに激しく反対していたため、パキスタンは短期間でターリバーンから距離を置くようになった。また、米国が主導する反テロリズム運動にインドが積極的に参加することで、パキスタンの平和は危うくなり、反テロリズム運動との密接な連携が必要となった。
2006年初頭、米国のテロ対策への取り組みが弱まり(訳注:テロリスト掃討が一定の成果をもたらし、前年には国政選挙が行われるなど、このころ米国はアフガニスタンにおける民主国家建設へと舵を切った)アフガニスタンの一部でターリバーンの復活の兆しが見られるようになると、ターリバーンへのパキスタンの支援疑惑が再燃した。米軍に攻撃されたターリバーンはパキスタンに避難し、アフガニスタンへの再侵攻を期して戦力を整えていると当時考えられていた。これが、パキスタンの対テロリズム外交政策の変化(訳注:2006年9月5日、ムシャラフ政権は北ワジリスタンで抗争中だったターリバーンと和平合意に著名した)と重なり、パキスタンは再びターリバーンを支援するようになった。にもかかわらず、パキスタンは自らをテロとの闘いのチャンピオン、闘いの最前線にいる犠牲者としてふるまい続け、それを基に欧米諸国の支持を取り付けることができた。
参考サイト:米国のアフガン戦争史
https://www.cfr.org/timeline/us-war-afghanistan
ムシャラフ政権とターリバーン
https://idsa.in/system/files/strategicanalysis_shanthie_0906.pdf
(p17)
パキスタンは、欧米諸国とも周辺諸国とも友好的な関係を築いていた。ターリバーンとの対話を望む国は、パキスタンを経由しなければならなかった。まるでアフガニスタンにおける戦争の終結と和平への道がパキスタンを通っているかのように。米国のような強国でさえ、ターリバーンと交渉するためにはパキスタンの協力が必要だと認識していた。米国とカタールが主導し、アフガニスタン前政権の崩壊とターリバーンの復活をもたらしたドーハ会談には、パキスタンの支持と承認があった。ターリバーンの復活は、パキスタンの当該集団への支持を改めて示した。
ターリバーンがカーブルに戻ってきた初期の頃(訳注:2021年8月15日以降)、パキスタンの軍統合情報局(ISI)のトップであるファイズ・ハミードが、カーブルのあるホテルで目撃された。彼はターリバーンの内閣を作り、この点に関するあらゆる紛争を解決するつもりで来たと報告された。この有力なパキスタン人高官の存在は、ターリバーンがパキスタンの支配下にあり、この集団が依然として同国にとって重要であることを示唆している。
参考記事
https://www.hindustantimes.com/world-news/who-is-isi-chief-faiz-hameed-whose-visit-to-kabul-has-sparked-controversy-101630843177941.html
以上を勘案すると、パキスタンはターリバーンへの支援と引き換えに、見返りとして何を求めようとしているのかが問題となる。この期待は斬新なものではなく、パキスタンが建国以来、アフガン政府に期待してきたものと同じである。アフガニスタンの他の政府はこれらの期待に応えられなかったが、パキスタンはターリバーンがそれを実現できる唯一の勢力であると信じている。
命令の遵守
パキスタンは長年、アフガニスタンにイスラマバードの意向に沿う政府が樹立されることを求めてきた。パキスタンは建国以来、アフガニスタンに対して「影響戦略」(訳注:他国における自国の経済的・文化的影響力の拡大を図りつつ、他国の世論を誘導し国家指導者の政策決定を自国にとって都合の良い方向へと変える)をとってきたが、これは問題の解決につながらないばかりか、問題をより複雑にしてきた。パキスタンは、隣接する2つの国(訳注:インドとアフガニスタン)との間で国境問題を抱え、自国の生存に不安を抱いている。このような生存への不安から、パキスタンでは軍が支配的な勢力となり、軍は国の保護者とみなされてきた。軍が政治を従えた悪影響はほとんど無視された。
パキスタンは自国の存続が危ぶまれていることから、南アジアにおいて修正主義的なスタンスをとっている。例えば、域内秩序を決定するインドの役割を認めず、その打倒を第一の目的としている。さらに、国境紛争を有するアフガニスタンを不安の種とみなしている。その結果、パキスタン当局はアフガニスタンにイスラマバードの意向に沿う政府を打ち立てようとしている。この観点から、パキスタン軍はターリバーンを望ましい選択肢とみなしている。
アフガニスタンにおけるインドの影響力を阻む
パキスタンは長年、アフガニスタンにおけるインドの影響力を弱めようとしており、同国での政府樹立の試みもその一環と見なすことができる。パキスタンはインドを警戒し、不倶戴天の敵対者とみなしている。南アジア、中央アジア、そして南コーカサス(訳注:ほぼアルメニア、ジョージア、アゼルバイジャンに相当)でも、両国の力は拮抗している。どの国であれインドの存在は、パキスタンの存在感を阻害するものとみなされている。インドとパキスタンの激しい対立は、インドの得がパキスタンの絶対的な損になり、その逆もまた然りという「ゼロサム」ゲームとして展開している。
パキスタンとインドの対立は、国境問題だけでなく、イデオロギーの違いにも起因している。この2国の分離はイデオロギー的な根拠に基づくもので、パキスタン当局は、インドがイスラム教国パキスタンの存在を受け入れることができず、その破壊を試みていると考えている。
パキスタン当局は、国境紛争において、インド・アフガニスタン両国が反パキスタンを標榜する戦略パートナーにならないよう画策している。パキスタン当局は、両国と同時に対立することは有利でなく先見の明もないと考えており、一方と同盟を結び、他方と競合することを優先している。パキスタンはアフガニスタンと同盟を結び、同国におけるインドの影響力を阻害し、あるいは両国の分離を実現しようと努めているのだ。
パキスタンはアフガニスタンがインドと一切関係を持たぬよう望んだり、両国が永久に対立状態になることを必ずしも期待しているわけではない。むしろ、アフガニスタンがインドとパキスタンのどちらかを選択しなければならないのであれば、パキスタンを選択するべきだと望んでいる。ターリバーンに対する要求のひとつは、インドとの関係レベルをパキスタンの懸念と配慮に従って調整することであり、ターリバーンは過去と現在、明らかにこの要求に応えている。
国境紛争に終止符を打つ
アフガニスタンとパキスタンの間には、長年にわたる国境紛争があり、両国の関係を冷え込ませている大きな要因となっている。この紛争は国の成立に根ざしたものであり、これが解決されない限り、他の紛争地域も存続するだけでなく、拡大することになる。パキスタンは、アフガニスタンに自分たちとの国境紛争を伴わない政府を打ち立てようと望んでいる。
そのためにターリバーンを望ましい勢力とみなしており、彼らへの期待は次の3点に集約される。
1. 国境紛争をパキスタンに有利な形で公式に終結させること
2. 沈黙を守るかまたは無関心でいること
3. パキスタンの土地の所有権を主張せず、パキスタンに対するパシュトゥーン感情を煽らず、国境両側のパシュトゥーン人の統一を唱えないこと
(訳注:パシュトゥーン人は統計のあるパキスタンで人口の約15%=約3000万人強、国勢調査がされたことのないアフガニスタンでは2000万人弱との推定があり、約5000万人がアフガニスタンとパキスタンの国境をまたいで居住している。歴代のアフガニスタン政府はデュランドラインを認めずバルーチ族もふくめ民族の統一を求める立場であったが、ターリバーンの立場は曖昧。)
アフガニスタンの支配者は過去も現在も、国境紛争の終結を望むパキスタンの期待を一切受け入れないばかりか、それに反発して世論を刺激してきた。その顕著な例が、サルダール・モハンマド・ダウド・カーン(Sardar Mohammad Daoud Khan)(訳注:1973年~1978年。同年4月28日、いわゆる4月革命により殺害)の治世における両国の緊張関係である。
両国の国境紛争に対するターリバーンのスタンスは不明確である。ターリバーンがパキスタンの期待する紛争解決に応えられるとは思えない。仮にそうすれば、世論、特にパシュトゥーン人の怒りを買う可能性が高いからである。
中央アジアの道をパキスタンに開いておく
パキスタンは中央アジアに経済的必要性を感じており、そのニーズに応えるために域内の電力、石油、ガスに着目している。パキスタンにとって中央アジアへの最短ルートはアフガニスタン経由であり、アフガニスタンがパキスタンとの国境を閉鎖すれば、中央アジアの天然資源へのアクセスは断たれることになる。そのため、パキスタンはアフガニスタンの政府が中央アジアへの入り口を開放することを望んでいる。中央アジアと南アジアを結ぶ3つの大きなプロジェクトがこれまで計画されていたが、前政権の崩壊やターリバーンの復活など、さまざまな要因ですべて失敗している。これらのプロジェクトを成功させるためには、アフガニスタンが安全で安定した環境になることが必要であり、そうでなければ、これらのプロジェクトの実現は不可能であると思われる。
パキスタンの反対勢力を弾圧する
パキスタンはアフガニスタンで政府内勢力と政府外勢力、双方の対立に直面してきた。サルダール・ムハンマド・ダウド・カーン政権、左派(訳注:アフガニスタン人民民主党(PDPA))、ムジャヒディーン、そしてハミド・カルザイ政権、モハマド・アシュラフ・ガニー(Mohammad Ashraf Ghani)政権は、いずれもパキスタンとの関係を緊張させてきた。数あるパキスタンの目的のひとつは、アフガニスタンにおける反対勢力を鎮圧することであった。それら反対勢力は2つに分類される。つまり、パキスタンによるアフガニスタンへの内政干渉に反対する勢力と、パキスタンの干渉に反対しながら国境両側のパシュトゥーン人の統一も求める勢力の2つである。
パキスタンは両派の制圧に関心を持ち、そのためにターリバーンを有力な選択肢と見なしている。例えば、アフガニスタンの元大統領であるモハマド・ナジブラー・アフマザイ(Mohammad Najibullah Ahmadzai)(訳注:PDPA政権時の大統領。1996年9月27日、カーブルの国連施設に保護されているところを襲われ殺害された)は、パキスタンの支援を受けたターリバーンに殺されたと言われている。さらに、過去20年間に起きた他の主要人物の暗殺も、何らかの形でパキスタンやターリバーンと関係があるとされている。アフガニスタンでパキスタンの反対勢力を抑えている分だけ、イスラマバードは同じ程度に目的を達することができているとパキスタン当局は考えている。ターリバーンはパキスタンの期待に応えることに成功したようだ。
パキスタンがターリバーンに対して直近で期待しているのは、パキスタンのターリバーン(Tehreek Taliban Pakistan/TTP)の制圧であり、これについては本サイトの別の記事 “イスラマバード会談: 北京とイスラマバードはターリバーンになんと言う?” で詳しく述べられている。
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