Inside Pakistan: Imran Khan’s Arrest ‘Was Foretold’: Implications for India
ANA(Asia News Agency) News behind the News
May 15, 2023 – 20:07
ANA(アジア・ニュース・エージェンシー) ニュースの裏ニュース
2023年5月15日
(WAJ: パキスタンのイムラン・カーン前首相は5月9日(火曜日)に逮捕されたが、暴動がらみの反対運動の勃発によりわずか2日で釈放された。緊迫するパキスタン政治情勢に関するアジア・ニュース・エージェンシー(インド)の論評。動揺する不安定な核武装国家パキスタンの存在は南アジアのみならず世界的な危機の潜在要因である。ニュースの裏の裏を読まなければならない。)
前首相でパキスタン・テフリーク・エ・インサフPTI議長のイムラン・カーンが、火曜日(9日)にイスラマバード高等裁判所(IHC)の裁可により逮捕された。この逮捕を執行したのは、警察ではなく、暴徒対策装備をまとったパキスタン・レンジャー部隊だった。レンジャーは準軍事組織で、通常、国内の治安維持を担当している。
パキスタン最高裁判所(SC)は木曜日(11日)、この逮捕は「違法」であるとし、カーンの釈放を命じた。
汚職の容疑:
今回の逮捕は、汚職事件の捜査を任務とする国家説明責任局(NAB)が先に発した令状に従っている。
逮捕に至った容疑:
容疑は闇に包まれた汚職事案に関するもので、その中にはカーン夫妻による50億パキスタン・ルピー(1750万ドル)の収賄容疑が含まれる。その金額を夫妻は所有するアル=カディール信託に迂回してロンダリングし合法化したと言われている。土地と金を贈賄したとされるのは不動産王のマリク・リアズ。2019年に英国の調査を受け、パキスタンに資金を送還したのだが、それを当時のカーン政府が手助けした見返りだと言う。
カーンは容疑を否認:
しかし、これはカーンが直面している多くの法的訴追の1つに過ぎない。実際、彼は何十もの汚職やその他の容疑、さらにはテロ行為への加担が疑われている。
逮捕の背後には軍部:
レンジャーを呼ぶということは、軍部が逮捕の背後にいる、あるいはどう少なくみても、確実にそれを承認しているということだ。パキスタンの政治は、軍の関与なしには成り立たないので、それほど驚くことではないかもしれない。そして、この逮捕が、次のような事実、つまりパキスタン軍のメディア部門である省庁間広報(Inter-Services Public Relations)がカーンサイドを非難した翌日に行われたということも注目に値する。カーンサイドは、上級将官であるファイサル・ナシール少将(訳注:スパイマスターと称されるISIのナンバー2で、国内治安と防諜を担当)がカーンを2度殺そうとした、と主張していたのである。
カーンの逮捕は予言されていた
カーンの逮捕は予言されていた、とニルパマ・スブラマニアン(インディアン・エクスプレス全国編集者戦略担当)は論評する。「失脚後(訳注:2022年4月10日、野党連合が提出した不信任決議案が可決されイムラン・カーン首相は解任された)、彼の人気が急上昇したため、有罪判決による資格剥奪が彼を選挙の対象から外す唯一の方法だった。彼は殺人から国家贈答品の密売による受益まで、140の事件で告訴されていると伝えられている。」
参考記事:カーン失脚
https://www.bbc.com/japanese/61035072
編集者スブラマニアンについて(The Indian Expressにおける彼女の記事は有料)
https://indianexpress.com/profile/columnist/nirupama-subramanian/
「PDM(訳注:不信任決議案を提出した野党連合パキスタン民主運動。カーンに対抗するため2020年に創設された)は、カーンの手中にはまり選挙で敗北することを恐れている。そしてカーンが当選すれば、政府が引退時期を先延ばしにしてまで陸軍参謀総長に就任させたムニール将軍が最初の犠牲者となるだろう。陸軍内には、ムニールの任命に対する若干の疑義や、カーンに与する派閥もあるようだが、上層部の多くは、カーンをパキスタンにおける優位な立場への直接的脅威とみなしている。」
参考記事:カーン対ムニール
https://thediplomat.com/2023/05/the-battle-for-supremacy-in-pakistan-asim-munir-vs-imran-khan/
抗議行動(訳注:カーンの拘束を受けてパキスタン内外で激しい抗議のデモが続いている)がいつまで続くか、そして軍がどのように対処するかで、次に何が起こるかが決まる。 しかし、危険なのは、目に見えるリーダーシップを欠いたままで「抗議行動が続けば、制御不能に陥る可能性があり…PTI(訳注:カーン前首相が創立したパキスタン正義運動)は、カーンなしでは何もできない」という現実である。
カーンの判断ミス:軍を敵に回す
しかし、インディアン・エクスプレス紙の社説(訳注:5月10日)はカーンの判断ミスについて以下のように解説している。それは「自分が暴言を吐いた相手が今も国を牛耳っていることを忘れてしまったことである。昨年、新陸軍参謀総長の人選に影響を与える目的も兼ねて『長征』した際に(訳注:カーンの失脚から半年ほどたった2022年10月、PTIは総選挙の実施を求めてラホーレからイスラマバードまで300キロのデモ行進を始めたが、カーン自身が撃たれ足を負傷するなどし、首都の混乱を避けるためとして翌月中止した)暗殺未遂事件が起きて以来、彼は陸軍幹部、シャリフ首相、内相に対して公然と怒りをぶつけてきた。
参考記事:The Indian Express社説
https://indianexpress.com/article/opinion/editorials/express-view-on-imran-khans-arrest-his-error-of-judgement-8600689/
長征
https://indianexpress.com/article/opinion/editorials/express-view-on-imran-khans-arrest-his-error-of-judgement-8600689/
カーン狙撃
https://www.theguardian.com/world/2022/nov/03/imran-khan-shot-in-assassination-attempt-in-pakistan
「……逮捕への天秤を確実に傾けた要因は、ISI(訳注:パキスタンの軍統合情報局)が自分を殺そうとした、しかも1度だけでなく2度も、とカーンが先週の集会で繰り返し言い放ったこと。またその発言が「陸軍はインドと戦争することはできない」という暴露報道(訳注:パキスタンの著名ジャーナリスト、ハミド・ミールによる)への明らかな共鳴に輪をかけたことがあげられる。こうしてカーンの逮捕が決定されたようだ」。
参考記事:言いたい放題のカーン
https://www.outlookindia.com/international/pakistan-former-pm-imran-khan-claims-isi-officer-s-involvement-in-senior-journalist-murder-news-284351
参考動画:私は2度狙撃された(狙撃の翌日、11月5日のインタビュー)
https://www.youtube.com/watch?v=F9aveOkw0yA
ジャーナリストによる暴露と「私はもっと知っている」(カーン)
https://www.youtube.com/watch?v=P85RAIch00s
カーンは復活するかもしれない。「……しかし、今のところ、彼の党は彼よりも権力に見合う人物に率いられる必要があるかもしれない」と社説は締めくくっている。
軍隊は苦しんでいる
パキスタンの軍隊は、いまはもがいているが無視できない。アビナッシュ・パリワル(訳注:SOASロンドン大学教授、『敵の敵-ソ連侵攻からアメリカ撤退までのアフガニスタンにおけるインド/My Enemy’s Enemy: India in Afghanistan from the Soviet Invasion to the US Withdrawal』の著者)によれば、軍隊の「政治的優位性、組織の結束、大衆の人気は、長い間信仰の対象であった。しかし、今日、この3つはすべてボロボロになっている。以前の例とは異なり、将軍たちは国民の支持を得ておらず、最近では、カマル・ジャベド・バジュワ前総将軍と親カーン派で前ISI長官のファイズ・ハミード前司令部中将の対立という深刻な組織分裂に直面し(この傷はまだ癒えていない)、最大の宿敵インドと戦うには資源不足であると不本意ながら認めている。これに、旧来の政党への国民の薄い信頼、カーンに対する大衆の支持、約40億〜50億ドル近辺で低迷する外貨準備高を組み合わせれば、パキスタンの苦境の深刻さは明らかだ。」
参考サイト
https://beo.jp/university/soas/
次のステージ:敵対する両大物
敵対する両大物は、軍とイムラン・カーンの双方である。この戦いの行方は、パリワルによれば「2つの揺れ動く要因に左右される。そのひとつは、親カーン派抗議者の資質、もうひとつは、それに対抗する軍の能力と意欲」だと言う。軍は、「親カーン派の抗議行動の持久力が衰え、偽裁判に続いてカーンが長期投獄されれば、選挙によってあとはどうにでもなると計算している。これはあり得ることだ。しかし……カーンはパキスタンで救世主的な魅力を享受しており、彼の裁判は軍が排除したい抗議活動を煽りかねない……。」
インドと周辺諸国にとって危険な状況
どの方向に事が進んでも、パリワルによると「パキスタンに良い選択肢はない。独裁的な傾向を持ち、構造的な問題に対する現実的な解決策をほとんど持たないイスラーム系ポピュリストを選ぶか。はたまた権力維持に固執するばかりで政策に関しては何の手がかりも持たない、腐敗し政治化した軍部を選ぶか。これはパキスタンだけでなく、近隣諸国、特にインドにとっても危険な状況である……進行中の騒動は、合理性の最後の一縷をむしばみ、管理ライン(Line of Control=LOC/訳注:カシミール地方における印パの境界線、「実効支配線」とも訳される)で強く必要とされる停戦状態が維持できなくなるだろう。」
参考サイト
https://www.moj.go.jp/psia/ITH/situation/SW_S-asia/Kashmir.html
カマル・ダヴァール(退役中将、インド軍統合情報局創設者、統合国防幕僚監部副長)は言う。「現在パキスタン全土で起きている広範な扇動が収まらない場合、パキスタンだけでなく、インドなど周辺諸国にとって、警鐘は不吉な知らせをもたらす。パキスタンは結局のところ核武装国家であり、その安定はこの域内において不可欠なのだ……。」
参考サイト:軍統合情報局(インド)
https://www.globalsecurity.org/intell/world/india/dia.htm
最後にインド・トリビューン紙の社説を引用しておく。「パキスタンの政情不安はインドにとって重大な意味を持つ。数十年にわたり国境を越えたテロに悩まされてきたからだ。最近、プーンチ・ラジューリ地区(訳注:カシミール内の1地区で、LOCの東側に位置する)で兵士が殺害されたことは、テロ活動の激化を示すものであり、ニューデリーは今後数週から数カ月にわたり警戒を続けなければならない。特に、パキスタンの民兵組織が現在の騒乱からより強さを増すなら、さらなるトラブルが待ち受けているかもしれない。」
参考記事
https://www.tribuneindia.com/news/editorials/turmoil-in-pakistan-506590
【原文(英語)を読む】☟
http://nbnindia.com/inside-pakistan-imran-khans-arrest-was-foretold-implications-for-india