Unpredictable Development of Situation in Afghanistan  

 

ファテー・サミ (Fateh Sami)
2023年6月12日 (12 June 2023)

(WAJ:本稿はターリバーンが2021年8月15日にカーブルを占拠してから1年10か月を経た時点での、ターリバーンとパキスタンとでおこなわれている領土的な陰謀を暴くものである。そこには日本人には理解しがたい、領土交換的な闇取引の存在があぶりだされている。(本論考については<視点>No.068で詳しく解説する。)サミ氏は本サイト開設(2021年春)のターリバーン復権の前から、アフガニスタンで生じている事態を冷徹な視点で分析と解説を続けてきた。マスコミが書き立てた「弱かったアフガン軍」とのキャンペーンに対してターリバーンの復権が、米国とターリバーンによる仕組まれた陰謀であることを暴露し続けてきた。その後のアフガニスタンでの推移はサミ氏の分析が正しかったことを明かしだしている。サミ氏がこの間、本サイトに執筆した論説のすべては「ファテー・サミ執筆記事一覧」で読むことができる。通読すれば氏の鋭く的確な慧眼ぶりに驚くだろう。)

 

 情勢の急激な変化の背景は、世界支配をめぐる超大国間の対立 

世界支配をめぐる超大国間の対立を背景に、アフガニスタンや地域の状況は急速に変化している。アメリカは、世界で唯一の一極集中国家であるが奔放に軍馬を疾駆させることは許されないようだ。現時点で、この点についてそれほど詳しく説明する必要はない。パキスタン軍の急激な変化と政治的分裂、パキスタンの元首相で政党PTIの創設者兼会長のイムラン・カーンと軍との対立(訳注:本サイト「イムラン・カーンの逮捕は『預言されていた』」参照)ターリバーンの権力闘争(訳注:トピックス欄2023年3月9日「ターリバーン高官、爆殺される」など参照)、さらにウクライナ戦争までもが、すべて見通しの立たない沈鬱なアフガン情勢と関係している。

(訳注:ターリバーン組織は、アフガニスタンとパキスタンに国境を越えて混在し、それぞれ緊密な関係をもつが別組織である。パキスタンのターリバーンはテヘリケ・ターリバーン(Tehrik-e Taliban Pakistan、略称 TTP)と呼ばれ、アフガニスタンのターリバーンは普通単にターリバーン(Taliban)と呼ばれる。)

 

パキスタン国民が政治・経済・食料供給の各分野で苦しめられていること、アジアの強力な国々が域内で米国独占に対するライバルとして台頭しつつあること、そして法に従わぬ無政府主義者集団であるターリバーンのテロリスト犯を利用し、権力奪取のお膳立てがなされたこと。これらが、アフガニスタンで進行中の混乱を予測不可能なものにしている。ターリバーンを支援する国々は、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンのような中央アジア国家(訳注:旧ソ連から新たに独立した国々)にターリバーンが突撃するよう仕向けている。これら中央アジア諸国はロシアと良きライバル関係にあるため、米国とその親密な同盟国が支援するテロリスト集団によって攻撃されることは避けられない。

(訳注:日本で開かれたヒロシマG7サミットに対抗して同日程で習近平中国が西安で開いた中央アジアサミットで中国と中央アジア諸国は「運命共同体」と宣言した。これはロシアがウクライナ侵略で力を落としたことの象徴であるとともに、中央アジア情勢をより複雑にする要因ともなった。)

アフガニスタン北部にTTPつまりパシュトゥーン人を移動させるプログラムとウクライナでの戦争は、奇しくも同じ2014年に始められた極めて危険なゲームだ。

<参考記事:クリミア併合>
https://toyokeizai.net/articles/-/541749

当時のクリミア併合に対抗する形で、NATOの同盟国はウクライナを武装させてロシアに迫り、ロシアを包囲しようとした。そのような挑発行動が、ロシアとウクライナの戦争を引き起こしたのだ。ロシアに対して仕組まれた、あらかじめ計画されたシナリオだった(訳注:『罠にかかったプーチン』参照)。この戦争は、ウクライナを骨の髄まで武装させたにもかかわらず、NATOの同盟国には有利に働いていない。ウクライナの欧州同盟国の考えと反対の方向に事態は推移している。2022年2月14日に露・ウクライナ戦争が始まって以来、ウクライナは多くの戦線で敗北している(訳注:ロシアはクリミア半島およびウクライナ南東部で総国土の2割近くを武力により違法占領できている)。つまり米国とそのNATO同盟国が挑発したウクライナ戦争は失敗したのだ。そのため中央アジア情勢の進展に基づき、ロシアのライバルおよび敵対国がロシアの南(アフガニスタン北部)から新たな戦線を開こうとする可能性は高い。

こうして現在、ドーハの秘密協定(訳注:2020年に調印されたターリバーンと米国が和平を約した合意だが、その内容には秘密事項も含まれると囁かれる)に従ってアフガニスタン北部に新しい戦線が開かれるのは必然と見える。それこそが、アメリカがアフガニスタンから突然撤退しターリバーンを安価な歩兵として傭い上げ仲間にした理由で、その真相がいま明るみに出つつある。

 

なぜアメリカは20年後にターリバーンを復権させたのか?

前述の通りアフガニスタンや域内の情勢は急速に変化している。ウクライナ戦争とターリバーンの変転とは密接な関係がある。パキスタンのワジリスタン(訳注:パキスタン北西部にある連邦直轄部族地域の一部でアフガニスタンと国境を接し、区画としては北と南に分けられる)からアフガン北部へのパシュトゥーン人の移動は、中央アジア諸国(タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン)への攻撃の準備である。その前にターリバーンは、全長280km、幅100mとなるクオシュ・テパ運河(訳注:アフガン北部の国境を流れるアムダリヤ川から水を引く運河で、工事は2022年3月に始まり、既に100キロほどが完成)の建設に着手した。工事はバルフ州のカルダール地区で始まったが、完成するとジューズジャーン州を横切りファーリヤーブ州にまで至る。プロジェクトは開始直後に一時停止したが、すぐ再開され精力的に進められている。飢える国民を食べさせることもできず、毎週4000万から8000万米ドルの援助を受けて生き延びている(訳注:本サイト・トピックス欄2022年11月9日「ターリバーンが受け取った人道支援額は10億ドル以上」参照)ターリバーン政権が、どうやってこのプロジェクトの資金を調達するのか? 実はワジリスタンからパシュトゥーン人を移送させ、クオシュ・テパ運河が潤す北部へ定住させる案件は、いわゆるドーハ和平合意の秘密条文によれば、ターリバーン政権が2年目を迎えた後に終了する運びなのだと言う。(写真はターリバーンの管理下にあるアフガニスタン国立銀行にアメリカから定期的に送られ続けている4000万ドルのパッケージ。FRB(米連邦準備制度理事会=アメリカ中央銀行)とBEF(米造幣局)のクレジット付き)

<参考記事:クオシュ・テパ運河>
https://eurasianet.org/uzbekistan-pursues-dialogue-with-afghanistan-on-fraught-canal-project
https://thediplomat.com/2023/04/what-afghanistans-qosh-tepa-canal-means-for-central-asia/

<アフガニスタンへの支援金>
https://amu.tv/en/31438/

 

アメリカの援助と支援によってターリバーンは再度政権についた。アメリカが全面的な支援を提供した理由はイラン、ロシア、中国という3か国に対する戦略的目標を達成するためだった。つまり今やターリバーンは、安価な予備軍として傭われ利用されている。それはアメリカとNATOがロシアに対抗してウクライナへ武力的・政治的支援を提供するのと同時に進行している。米国は意図的にターリバーンを再び表舞台に立たせ、中国の経済・交易プロジェクトを無力化し相殺するために利用し、ロシアが多極化世界を目指す努力を妨害する。アメリカ合衆国は、民主的な政府という名のプロパガンダと不正な選挙を20年間続けた挙げ句、ハミド・カルザイ(Hamid Karzai)とアシュラフ・ガニー(Ashraf Ghani)の腐敗した政権に見切りをつけたのだ。

アメリカは現在、アフガン北部で新たな対ロシア戦線を創出しようと注力している。パキスタンの助力でアフガン北部に武装過激派や多国籍のテロリストを移住させるのは、何のためか。いうまでもなく、中央アジア諸国に動揺を与え、ロシアにとって厄介ごとと頭痛の種をこしらえるためである。クオシュ・テパ運河プロジェクトへ資金を提供し、北部の国境州にパシュトゥーン人を移送してアムダリヤ川沿いに安全地帯を作ることは、中央アジア諸国に混乱を招き、危機を創出するための企てである。政治アナリストやアフガン国民はこの筋書きを十分に認識しているが、陰謀家たちは人々をそそのかし、本来の企てから人々の心をそらすプロパガンダに余念がない。

 

アフガン戦争の目的はなにか?

アフガニスタンの国民は、アフガン戦争は自分たちではなく、周辺諸国および世界各国が主役の諜報戦であることを熟知している。アフガニスタンでの戦争は、9.11の後、テロとの戦いの名の下に始まり、無期限に続いている。米国がアフガニスタンに進駐して以来、はびこった諜報機関の組織的な陰謀によって、おびただしい人々が殺された。(訳注:Wikipediaによればアフガン国軍約7万人、民間人約5万人弱、ターリバーン5万人強、外国軍6000人)その結果、アフガニスタンは破壊された。麻薬マフィアと地下資源の略奪者たちは互いに競争し、アフガン国民を極めて脆弱で悲惨な状態にしてしまった。彼らは産業インフラ、農地、教育機関、生産工場などを破壊した。いま、85%以上の人々が貧困ライン以下で生きざるをえず、自給自足の生活を強いられている。

<参考サイト>
https://ibc.org.tr/EN/1599/85-percent-of-the-population-in-afghanistan-br-is-living-below-the-poverty-line#:~:text=The%20United%20Nations%20Development%20Programme%20(UNDP)%20specifically%20emphasized%20that%20the,raised%20for%20Afghanistan%20in%202023.

 

アフガン戦争は、最初からロシア(旧ソ連)とアメリカの戦争だった。アフガニスタン人民民主党の指導者たちと、パキスタンに拠点を置くムジャヒディーン軍は、それぞれソ連とアメリカという2大国に完全に依存していた。もちろん、戦争には金がかかる。誰が資金を提供したのかを考えれば、そのことは火を見るより明らかである。

 

北部へパシュトゥーン人を移送する理由は何か?


(訳注:上段地図はアフガニスタン、パキスタンでの主な民族の主要分布。図のように画然と分住しているのではなく、実際は混住が進んでいる。下段地図はデュアランドラインのパキスタン側パシュトゥーン族の居住分布。両地図とも2010年発行の『The Pashtun Question』(Abubakar Siddique)より引用)

パキスタンの北ワジリスタンからアフガン北部の国境州へテロリスト(訳注:TTP)を中心としたパシュトゥーン人を移送するという北部アフガニスタンの「パシュトゥーン化計画」(訳注:パシュトゥーン化とは中世から20世紀前半まで歴代の王がパシュトゥーン人を他の民族の土地に移住させ支配を固めてきた施策だが、それをカルザイとガニーの政権が復活させ、さらにターリバーンが踏襲した)がこのほど公にされ、その動きが強化されている。危機的状況が叫ばれターリバーン内部では、後述の通り非パシュトゥーン系の構成員が粛清された。今後事態は他のタジク、ウズベク、ハザラなどの民族集団の根絶へとエスカレートするだろう。

<参考記事:パシュトゥーン化>
https://www.afintl.com/en/202306135006
https://www.newarab.com/features/talibans-afghanistan-continuation-social-engineering

<移送の発表>
https://tahlilroz.com/en/politics/ttp-members/

ターリバーンは、パキスタンに居住するパシュトゥーン人をアフガニスタン北部へ移住させる計画をメディアに発表した。500万ものパシュトゥーン人をすべてアフガン北部に定住させる計画だと言う。人口構成を変え、北部の先住民の土地と財産を奪い取るプログラムだ。それによって存亡を危ぶまれるのは、まずタジク人、次にハザラ人、そして最後にウズベク人だ。さらに北アフガンの国境地帯にパシュトゥーン人がいれば、北部の抵抗勢力(訳注:国民抵抗戦線NRFなど)を撲滅するためにも役に立つ。そして彼らは間もなく中央アジアの国々で戦争を始める。なぜならアフガニスタンのアナリストによると、パシュトゥーン人を北部に移す計画は、アメリカやイギリスの諜報機関の助けを借りたパキスタンの軍統合情報局(ISI)によるものだからだ。

こうしてアフガン北部のパシュトゥーン化(パシュトゥーン人の移送定住化)が進めば、以下の事態が生じるとアナリストは言う。

 1- ロシアからの攻撃への備えができ、パシュトゥーン人テロリストで南北ワジリスタンに巣くうパキスタン・ターリバーン(TTP)の駆除につながる。その結果パキスタンにおいてパシュトゥーン人が消滅あるいは弱体化すれば、パンジャーブ州(訳注:1947年印パが分離独立した際、両国間で分割された地域)の再統一への機運が高まる。

 2- 北部においてセキュリティベルトが確立すれば、デュアランドライン(訳注:1893年、パキスタンがインドの一部として植民地だった時に取り決められたアフガニスタンとの国境)が実際にはアムダリヤ川沿いに移ることになる。

このことは、南部国境地域(タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、カザフスタン)にいるロシア人にとっては、まったく耐えられないはずだ。自国領土近辺でアメリカが勢力圏を拡大させるのを決して許さないロシアはどう反応するか? しかし、すぐには動き出さない。ターリバーンに対するロシア側の見かけ上は外交的でソフトな発言は、ウクライナ戦争の終結まで状況を見守ることを意味している。

また中国は世界の二極化維持の方向でロシアと一致しており、この方向での努力が続けられている。もちろん、ロシアがウクライナとの戦争に巻き込まれ、重い制裁を受け始めた当初は、中国の協力が不可欠で、その中国の協力のおかげで、ロシアは制裁による経済的打撃を回避できたのだ。

 

腐敗したカルザイ共和国時代に計画された北部のパシュトゥーン化が今、新時代の現実として訪れようとしている:

パキスタン内で醸成された過激さと好戦性という病根を持つ500万のパシュトゥーン人を骨の髄まで武装した上でアフガニスタンに移送させる計画。それに協力するのは、両国で暗躍するテロ集団(訳注:アル=カーイダ、ISIS、TTPなど)ならびにパキスタンISIで、移送先は北部に建設中のクオシュ・テパ運河周辺が想定されている。こうした計画は、アフガン国内にいる数千万人もの非パシュトゥーン人、さらには当のパシュトゥーン人にとってさえも大きな脅威で、域内および世界の安全を脅かす結果ともなる。

カルザイの腐敗した共和国が船出した当初から(訳注:2004年に大統領就任、実質的には2001年にはじまる米NATO軍の介入時点から、南部や東部の州では爆弾を用いたテロ攻撃がしばしば起こり内戦状態だった。カルザイは先祖(訳注:18世紀のドゥッラーニー朝時代にまで遡る名門家系)から受け継いだパシュトゥーン人の時代錯誤的思想にうなされた挙げ句、父や兄弟や従兄弟までが殺された恨みをすっかり忘れ、手を下したパキスタンやカンダハールのターリバーンを野放しにした。それどころか、カルザイはターリバーンに再注目し、彼らが成長し力をつけるまで、陰に陽に手助けをした。

<参考記事>
https://edition.cnn.com/2014/07/29/world/asia/afghanistan-karzai-cousin-killed/index.html

 

彼は、パキスタンの諜報活動の助けを得て、南部の戦争を北部にまで広めようとした。その裏には部族による独裁的単一支配の強化を目指す考えがあった。そのため、国際軍(訳注:米軍を中心とした国際治安支援部隊)とそれに武力提携するアフガン国軍がいくらテロリストたるターリバーンに対して作戦や軍事行動を展開しようとも、大統領自らが邪魔立てした。

パキスタン、ロシア、中国、イランさらには一部のアラブ諸国やアラブ系集団が国外から諜報的介入を行い、ターリバーンを補佐し、国際軍と自ら指揮する政府に対立しても、カルザイは沈黙の姿勢を貫いた。そうすることによってカルザイは、この悪辣なゲームと呼べる戦争で双方の当事者(国際軍、国軍、ターリバーン兵)および民間人を何十万人も死なせた。

次に現れたのが、精神病質でファシストで詐欺師で腐敗したアメリカの傀儡大統領であるアシュラフ・ガニーだ。彼は政権の座にいた間ずっと(訳注:2014年〜21年)、カルザイの政策を引き継いだため、爆破や自爆によるテロを誘引し、戦闘も本格化した。戦地は西のヘラートからバダフシャーン、クンドゥズ、ファーリヤーブ、バルフ、ジューズジャーンやサーレポルほかの北部州へと広がり、最後はカーブルにまで到達した。

 

ターリバーンが支配した2年間のあらたな犠牲と残酷さ、しかし国際社会は沈黙する:

かつてのターリバーン支配時代(訳注:1996年〜2001年)にも、爆破や自爆によるテロ、拷問と処刑は頻繁に行われた。州単位ではカーブル、バダフシャーン、パンジシール、タハール、ホーストで、地区単位ではアンダラブとファラング(共にバグラーン州)、バルカブ(サーレポル州)、そのほか国の北部地帯で。いま我々は、この惨めな土地で悲劇の歴史が繰り返されるのを目の当たりにしている。

現在、パンジシール州、バダフシャーン州、アンダラブなどのタジク人居住地にいる国民は、ターリバーンの圧政と非人道的な抑圧に厳しくさらされている。そこではファシスト的手法に則りターリバーンが女性、非パシュトゥーンの民族集団、教育を受けた人々、シーア派を差別している。アフガン全34州のうち32州が強制移民を抱え、その地図は現状を反映していない。現代における人間の恥もここに極まった。また確たる証拠によると、ターリバーンが捕らえた数千人の政治犯の中に、パシュトゥーン系アフガン人はほとんどいない。

<参考サイト>
https://www.iom.int/sites/g/files/tmzbdl486/files/situation_reports/file/IOM-Afghanistan-Situation-External-Sitrep-2-26082021.pdf

 

ターリバーンによってこの2年以内に投獄された人は約3万人で、そのうち90%はタジク人とペルシャ語・ダリ語(訳注:パシュトゥーン人の言語パシュトー語と並ぶアフガニスタンの公用語の一つ)を話す人たちだ。彼らは自分たちのアイデンティティと権利を守るために、さまざまな方法で抗議活動を行っている。アフガニスタンのひどい抑圧と差別を相手に闘うには、国民的な動員だけでなく国際的な支援が必要だ。国連がどんな御託を並べようが北部の動向は変わらない。ちなみに、シラージュッディン・ハッカーニ(Sirajuddin Haqqani)がムッラー・ハイバトゥラー(Mullah Haibatullah)(訳注:現在のターリバーン指導者(3代目))を批判し、ムッラー・オマル(Mullah Omar)(訳注:ターリバーン創始者)の息子であるムッラー・ヤクーブ(Mullah Yaqoob)(訳注:ターリバーン暫定内閣国防相)を推したとの国連報告については、この記事の最後で詳報する。

<参考記事>
https://www.afintl.com/en/202306106411

 

バダフシャーン州ではタジク系ターリバーンが暗殺された

パキスタン・ターリバーン(TTP)と名付けたパシュトゥーン人を北部州へ移送させるというニュースが流れたのと同じ時期に、バダフシャーン州でタジク系ターリバーンであるマウルヴィ・サフィウラ・ヤフタリ(Maulvi Safiullah Yaftali)が爆殺された。(訳注:「トピックス」欄「2023年6月9日 <ハシュテ・スブ・デイリー>バダフシャーン州でISISが自爆テロ」参照)

– ターリバーン集団の有名な司令官の一人で、バグラーン州における同集団の元警備司令官であるマウルヴィ・サフィウラ・ヤフタリは、今朝(訳注:2023年6月9日)、バダフシャーン州都ファイザバードで、ターリバーンの副知事のファティハ(葬送礼拝)式が爆破攻撃された際に殺害された。州内および市内の情報筋によると、本日の爆発後、地元のターリバーン同士が衝突しているとのことだ。

この事件では今のところ、マウルヴィ・サフィウラ・ヤフタリ、預言者モスクのイマーム(指導者)であるカリ・エサヌラ(Qari Ehsanullah)、ヤフタル族の著名な長老数名の死亡が確認されており、その他多数の負傷者が出ている。

いくつかの報告によると、ワルドジ族とヤフタル族の間には鉱山収入と権力をめぐる争いがあり、それぞれムッラー(指導者)ハイバトゥラーとシェイク(教主)ハッカーニに近い人物が族内にいるという。サフィウラ・ヤフタリは、最後まで残っていた有名な非パシュトゥーン系ターリバーン司令官だった。

<参考記事>
https://bnn.network/conflict-defence/security/deadly-explosion-in-faizabad-triggers-internal-conflict-among-taliban-forces/

 

アフガニスタンでの新たな戦略ゲームの開始:

シラージュッディン・ハッカーニ(訳注:アフガニスタン暫定内閣の内務相。自爆テロ部隊を率いている。父ジャラールッディンの興したハッカーニ・ネットワークは最初北ワジリスタンで活動を始めた。)は再びパキスタンの政治の中心に食い込み、そしておそらくはパキスタンから仕掛けられるゲームの指導者になる。ところで後述のごとくハッカーニは最高指導者のハイバトゥラー・アクンザダによって更迭される寸前だったらしい。もしそうなれば、パキスタンは職を失ったハッカーニをアフガニスタン北部へ指導者として送り込み、クオシュ・テパ運河周辺やその他の北部地域へのパキスタン・ターリバーンの移送を指揮・規制する役割を与えるだろう。

<参考サイト>
https://www.dni.gov/nctc/groups/haqqani_network.html

 

6月7日夜にアフガニスタン国際TVで放送されたパキスタンのアフガニスタン特別代表ドゥッラーニ氏の発言から類推すると、パキスタンはイランや中国に近いムッラー・ハイバトゥラー(訳注:ムッラー・ハイバトゥラー・アクンザダ:ターリバーンの最高指導者、アフガニスタン・イスラム首長国第3代アミール・アル=ムウミニーン)を迂回し、ハッカーニを改革派として登用したがっているようだ。少なくともそう宣伝している。しかし、そのパキスタンを裏で操るのは、結託するあの世界大国(米国)で、ハイバトゥラー勢力に終止符を打つか、はたまたアフガン政治の中心をカンダハールとカーブルに2分し、南北2つのパシュトゥーン勢力(デュラーニ族とギルザイ族)を生かしつつ国を管理するかのどちらかを迫られる。

<参考記事>
https://www.afintl.com/en/202306077074

 

ところで、ハッカーニ・ネットワークとアル=カーイダの関係は、アル=カーイダの創設までさかのぼることができるほど親密だ。フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』によると、両者の違いは「アル=カーイダの掲げる目標が国際的なものであるのに対し、ハッカーニ・ネットワークはアフガニスタンとパシュトゥーン部族主義に関する地域の事柄に活動を限定している」点のみだ。ターリバーン政権はどう転んでもテロリストによる支配なのである。(ハッカーニの出自については、末尾に原注※あり。)

 

パシュトゥーンとパキスタンの「土地交換」 アフガン北部を、パキスタンから来るパシュトゥーン人に割譲すべきとは何たる暴論!

前述の通り、パキスタン北部からアフガニスタン北部へのパシュトゥーン人の移送は、アフガニスタンのターリバーン政権とパキスタンによる大規模な社会工学的プログラムであり、大国の合意のもと、その監督と支援を受けて実施される。その結果、アフガニスタンはパシュトゥーン人に全面的に支配され、パキスタンにはパシュトゥーン人がいなくなる。

しかし、パキスタンとアフガニスタンの何百万もの人々のホームレス化へと導く占領による強制移住と財産簒奪という大暴挙は、パキスタン・ターリバーンを国境地帯(ワジリスタン)から遠ざけるという口実でなされ、それ自体はターリバーンとパキスタンが合意するもっともな理由に見える。しかしその実、これは数世代先まで影響を及ぼす反人間的な大陰謀であり、域内の仕組み全体と民族構成を変え、結果としてこの地域の政治地図を塗り変えることになる。(訳注:日本では考えられない暴挙のように思われるが、パキスタンがインドから分かれて独立するときイスラム教徒はパキスタンへ、ヒンズー教徒はインドへと大規模な分離移住が実施された歴史的事実がこの地域には存在する。)

そうでないなら、元祖アフガン・ターリバーンがパキスタン・ターリバーンを国境から遠ざけて別の地域に避難させることだけでパキスタンが満足することになるが、まともな人間ならそんな戯言を信じないだろう。つまりパキスタン・ターリバーンが国境から遠ざけられれば危険が取り除かれると安心するほどパキスタンは愚かではなかろう。

パキスタン・ターリバーン自体が、アフガン・ターリバーン同様、「北パキスタンからのパシュトゥーン人の避難とアフガニスタン北部への入植」というメインプログラムを実行するために、イギリスとパキスタンの協力で作られたプロジェクトであることは明かだ。

新たに塗り分けられる地図によれば、アフガニスタン北部のタジク人、ウズベク人、トルクメン人、ハザラ人の土地はパキスタンから来たパシュトゥーン人に譲渡され、これらの民族は徐々に持ち物をまとめ、他の国へ難民として流出するしかない。

この行為は、今や南を手中に収め次に北を狙うパシュトゥーン人の渇きを癒すためである。パシュトゥーン人は100年前からパキスタンと領土・国境紛争を起こし、パキスタンの国土の3分の1をその領土として要求して来た。この紛争を終わらせるために、パキスタンはパシュトゥーン人に提案した。「あなた方がパキスタン北部で言い争っている以上の土地をアフガニスタン北部に与える。そうすれば、あなた方は独立した大きな国を手に入れ、圧倒的多数として暮らせる。こうして、あなた方も、そして私たちパキスタン人も、戦争や諍いの必要ない統一国家をそれぞれ手に入れることができるのです。」

上述の通り、この陰謀の犠牲者は、アフガニスタン北部に大勢いる非パシュトゥーン系部族で、その土地は他者に譲渡される。実際、半世紀にわたってパシュトゥーン人と対峙してきたパキスタンは、パシュトゥーン人が渇望する民族主義の方向性を変え、暴力的ではあるが従順な集団(ターリバーン)に目をつけ、その助けを借りて大規模な人口移動計画に乗り出す手はずだ。つまり、パキスタンとパシュトゥーン人は、両国北方領土同士の「土地交換」に合意したのである。

アフガニスタンのアナリスト、ロスタム・ロシャンガル(Rostam Roshangar)によれば、パシュトゥーン以外の民族がこの大取引でどのように無視されたか、またその理由は何かが問われれねばならない。言い換えれば、何もせず何もできないと思われていたことに、タジク人、ハザラ人、ウズベク人自身がどう答えを見いだすか。なぜこれらの人々は誰にも省みられず、幼い孤児がだまし取られるように、その財産が人手に渡るのか?

アフガニスタンの北部と西部(ヘラート州)では、パキスタンから来たパシュトゥーン人があちこち闊歩している。タジク人とウズベク人は北部周縁に追いやられている。アフガニスタンは長期に渡って戦場となり、パキスタンのテロ生産拠点から移送されるテロリストが集中して、衰退を余儀なくされた。さらにそこへデオバンディ派(訳注:インドのデオバンドに由来するスンナ派イスラームの復興運動)の学校が乗り込み、拡散して苦しんでいる。先行きは暗い。アフガニスタンは完全崩壊という現状のまま前進している。

 

国連報告書いわく「ハッカーニはキングメーカーとして、ムッラー・ヤクーブをターリバーンのトップに据えたがっている。」

<参考記事>

<国連安全保障理事会議長あて制裁監視チームの第14回レポート(2023年6月1日発表)>
https://www.ecoi.net/en/file/local/2093255/N2312536.pdf

<上記国連レポートに関するハシュテ・スブ:アミン・カワ氏の見解>
https://8am.media/eng/un-security-council-report-the-taliban-have-maintained-their-relations-with-20-terrorist-groups/

国連安全保障理事会は新しい報告書の中で、「ターリバーンの内務大臣シラージュッディーン・ハッカーニが、ハイバトゥラー・アクンザダ(Haibatullah Akhundzada)に代わってムッラー・ヤクーブをグループのリーダーとして迎えようとターリバーン内でより多くの賛同を求め働きかけている」と述べている。報告書は、ハッカーニがキングメーカーを演じることで満足し、自らターリバーンのアミール(訳注:イスラム教徒の長を意味し、ハイバトゥラー・アクンザダの現地位)になりたいわけではないと強調している。この報告によると、ターリバーン内のすれ違いは、ハッカーニがホースト州(訳注:ワジリスタンに隣接する国境地帯にある)で行った演説(訳注:今年2月16日)に象徴されている。ハッカーニ・ネットワークの指導者である彼が政府で権力を独占しているグループ(訳注:その中心がハイバトゥラー・アクンザダ)を厳しく批判した。そのため逆に、シラージュッディーン内務大臣、ムッラー・ヤクーブ国防大臣代行、ムッラー・ファズル・モハマド・マズルーム第一副国防大臣代行(Mullah Fazl Mohammad Mazloom)らが更迭寸前だったと伝えられている。(訳注:報告書によると、更迭は却って現指導部の権威に傷がつくと判断されて回避されたようだ。しかし2度のコロナ感染から回復し切れていないハイバトゥラーが健康上の理由で退くとの見方もあって話は複雑。)

国連報告書では、ターリバーンとアル=カーイダとの関係も伝えられ、それが集団内の結束を阻む要因のひとつであると考えられる。アル=カーイダの指導者アイマン・アル・ザワヒリがカーブルで殺害された後、こうした不和が激化していた。ターリバーン政権内で、ザワヒリがアフガニスタンに存在していたことについて「騙された」と考える者(穏健派)と、「ターリバーンは外国人の利益を実現するためにアル・ザワヒリを裏切った」と考える者(強硬派)の対立である。

また、安保理の新報告書には、ターリバーンが米国と結んだアフガニスタンに平和をもたらすための合意(訳注:ドーハ合意)に基づくテロ対策条項を履行していないと記されている。アル=カーイダは活動能力を復活させ、パキスタン・ターリバーンはアフガン・ターリバーンの支援を受けてパキスタンを攻撃している。また、2022年4月のターリバーンによるケシ栽培禁止令の効果を判断するのは時期尚早であると強調した。禁止令にもかかわらず、ターリバーンの主要人物はアフガニスタンでの麻薬取引や生産に関与しており、麻薬の価格は上昇し、より収益性の高いメタンフェタミン(訳注:麻黄から作る覚醒剤)の生産は増加している。

最後に、報告書によると、内部の相違にもかかわらずターリバーンの統一は少なくとも今後12〜24ヶ月は維持される可能性が高いとの予測が、国連加盟国内で主流である。アクンザダを指導部とする現ターリバーンは、1990年代に支配した同集団による独占的、パシュトゥーン中心的、権威主義的な政策を踏襲している。域内の関係国は、アフガニスタンで現在のターリバーンの政策が続くと、内戦に戻る危険性があると懸念している。

 

<原著者による参考と注釈 >

<参考記事>
https://warontherocks.com/2021/11/the-haqqani-network-afghanistans-new-power-players/
https://bnn.network/breaking-news/security-council-reports-sirajuddin-haqqanis-attempt-to-depose-mullah-hebatullah-in-favor-of-mullah-yaqub-as-leader/

1980年代、ジャラールッディーン・ハッカーニ(Jalaluddin Haqqani)(訳注:先ほど内務大臣代行を解任されたと伝えられるシラージュッディーン・ハッカーニ(Sirajuddin Haqqani)の父親))はCIAによって 米国にのみ利益をもたらす「一方的な」人的資産として育てられ、アフガニスタンでソ連主導のアフガン軍と戦ったが、その見返りに数千万ドルの現金を受け取ったという記述が、スティーブ・コル(Steve Coll)の2009年の著書『The Bin Ladens』に記されている。)

ムハンマド・オマル(Mohammed Omar)

ターリバーンの創設者であり精神的指導者である彼は、死ぬまでアフガニスタン南部の米軍基地の近くに隠れ住んでいた。2013年4月23日、結核のため死去。その死は、2015年7月にアフガニスタンの国家安全保障局によって明らかにされるまで、2年間ターリバーン関係者によって秘密にされた。

ハッカーニはターリバーンなのか?

ハッカーニ・ネットワークは国連によってテロ組織と認定されている。ターリバーンの「半独立」分派と考えられている。アフガニスタン東部と国境を越えたパキスタン北西部で最も活発に活動している。

ターリバーンが主張する以前の国名(現在も)は 「アフガニスタン・イスラム首長」

 

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