(WAJ: 2023年2月14日、『ウエッブ・アフガン』はアフガニスタンの詩人ソマイア・ラミシュの「アピール:世界中のすべての詩人の皆さんへ」を掲載しました。この呼びかけに対し、北海道詩人協会事務局の柴田望氏が即、応えてくれました。柴田氏は氏が運営するtwitterやFacebook、また旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌で2017年12月に創刊された詩誌『フラジャイル』の公式サイトでその呼びかけを紹介、またたくまに他の詩人の共感を得て賛同のわが広がりました。その過程では、ターリバーンが本当に詩作を禁じているのかとか、政治的キャンペーンに利用されるのではないかとかの危惧や猜疑の念が表明されました。柴田氏や岡和田氏はじめ、心ある詩人たちは自ら事実を調査し、討論の輪を広げ、わずかの間に20人以上の詩人がソマイア・ラミシュ氏の呼びかけに応じて作品をつくり投稿しました。このような国際連帯の動きは近年日本では珍しい快挙ではないでしょうか。以下、柴田氏と岡和田氏の行動と発言を紹介します。)
ある困難な国の一人の詩人が、全世界の詩人に対し、何かを訴えるという姿勢に心を動かされ、日本の詩の世界で、そのような動きが果たしてあっただろうか、と考えさせられました。
世界の詩のあり方と日本の詩のあり方は、同じなのか、違うのか…
今まで持ったことのない問いを抱きました。
「ウエッブ・アフガン」編集長の野口壽一氏よりメールを戴き、「日常使っていたペルシャ語が弾圧され、詩歌や歌や踊りが奪われ、絵やデザインやあらゆるアートが禁止され、人間であることが否定され、人間としての進歩を暴力によって逆転させられようとしている」アフガニスタンの状況について知りました。
ヘラート州の州議会議員であるとともに詩人・作家として活動してきたソマイア・ラミシュさんのメッセージに心を打たれました。(以下、全文を読む)
(WAJ: 柴田氏はFacebookとTwitter で途中経過やソマイア・ラミシュさんとのやり取りを公開しながら全国の詩人たちに、このキャンペーンへの参加を呼びかけました。そして3月10日までに20人以上の参加があったことを『フラジャイル』上で明らかにしています。)
■詩人ソマイア・ラミシュさんの呼びかけに応え、3月10日までに、日本からはおよそ20人の詩人から作品が寄せられたとのことです。
ご理解を賜り、誠にありがとうございます。
ソマイアさんから日本の詩人へのメッセージが3月20日頃に発信される予定です。
https://t.co/c3ubYCSp99
1月15日にこの画像の禁止令がタリバンより発せられました。「日本アフガニスタン協会」に確認したところ、これは事実であり、現地で抗議運動が起きているとのことです。ソマイア・ラミシュさんによると、この発令後に詩人が詩を書くことは極めて危険とのことです。
https://www.afintl.com/202301167500
この発令には詩人が「音楽に似た詩」を書くことを禁ずるとありますが、何に似てるかを誰がどう決めるのか。検閲と抑圧の下で、「Almost all forms of poetry are banned.」実際は、ほぼすべての形式の詩の禁止と同義だと、ソマイアさんは私にメールで教えてくれました。(以下、全文を読む)
(WAJ: 柴田氏の働きかけと併行して、詩人の岡和田晃氏は、自ら呼びかけに呼応する新作を書き下ろす一方、アフガン詩人の呼びかけの意味、および、日本の詩人の中にある戸惑いや反発に対して丁寧な反論を展開してきました。そのまとめとなる文章を3月25日付図書新聞の文芸時評で発表しました。)
・泥沼化する侵略、詩の禁じられた社会に対峙すること(岡和田晃)
「カーブル、ヘラート、バダクシャーン・・・/国はバラバラにされ、どこで息をするかはどうでもよく/私たちはみな打ちのめされる!」これはアフガニスタンの亡命詩人 で、ヘラート州議員でもあったソマイア・ラミシュの詩 「ガニーを逮捕せよ/Interpol Arrest Ghani」の一 節である(『ウェッブ・アフガン』)。ガニーとはアフガンの元大統領アシュラフ・ガニーのこと。タリバン(ターリバーン)の侵攻で2021年にカーブル(カブール)が陥落したときの政権担当者だが、かねてから選挙の不正や人事におけるレイシズムの問題が指摘されていた。アメリカを後ろ盾につけようとしたものの、まともに相手にされず、対抗勢力としてのタリバンの伸張を招いたという。その後のタリパンの原埋主義的な支配において、とリわけ顕著なのは露骨な女性憎悪で――「売春の口実」になるか らと――女性の大学入学は禁止され、奨学金は受けられなくなり、女性教員は職を奪われた。ラミシュの詩を読めば、アフガン人民はガニーもタリバンも、どちらも拒否せねばならない状況ヘと追い込まれていたことがわかる。
挙句の果てにタリバンは詩作をも禁じた。文学は文字通り命がけの営みになった。そこでオランダに亡命していたラミシュは「囚われと亡命詩人の家 バームダード」を立ち上た。「バームダード(Baamdaad)」は「夜明け」の意味で、詩作禁止令への抗議のため世界中から詩を集め、公開しようというのだ。ゲイのSF作家サミュエル・ R・ディレイニーとの関係でも知られるレズビアン詩人のマリリン・ハッカーがフランスのペンクラブに働きかけ、運動は広がりを見せた。日本においては野口壽一、柴田望らがラミシュの声明を紹介、私も連帯のためにすぐさま英語の風刺詩「The Death of Democracy」を書き下ろし、また依頼を受けて葉山美玖の詩「澄んだ湖」を英訳して送付した。すでにバームダードのサイトには高細玄一「With Poetry」、Estela Gladys Lamas 「UN DÍA MÁS – ONE MORE DAY」等の詩が掲載されている。けれども、奇妙なことに本邦では世間的キャリアのある詩人ほど冷淡な態度を見せ、「タリバンが詩作を禁じた証拠はあるのか」、「詐欺ではないか」との反応すら起きる始末。タリバンの側からすれば「瀆神的な詩を規制しただけだ」と主張するに決まっていよう。私はラミシュが修士号を取得したデリー大学で学会発表をしたことがあり、彼女の置かれた状況をよく想像できる。この提言は詐欺ではない。
(WAJ: アフガニスタンで進行している詩に対する攻撃は、ひとりアフガン人のみの問題にとどまらずこの地球に暮らす同時代の人間性全般に対する攻撃にほかなりません。離れて暮らすわれわれがアフガン人の痛みをおのがものとして感じるには、人間としての想像力がとわれます。そのような感性をもっともよく発揮できるのは詩人であり、芸術家であり、アーチストのはずです。ソマイア・ラミシュさんといういちアフガン女性詩人が始めた運動がいま、大波となって世界中に広がりつつあります。その最初の波紋を日本の詩人たちが起こしえたことに拍手を送りたいと思います。)